消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

意見・提言

消費者団体訴訟制度に関する意見を提出

 消費者機構日本では、これまでの国民生活審議会消費者団体訴訟制度検討委員会の議論をふまえ、下記の意見書を、内閣府国民生活局に提出しました。

2005年3月2日

内閣府国民生活局
局長 田口義明 様

特定非営利活動法人消費者機構日本
理事長 品川尚志

消費者団体訴訟制度に関する意見

 国民生活審議会のもとに設置された消費者団体訴訟制度検討委員会でのこれまでの議論をふまえ、現時点で残された論点を中心として、意見を申し述べます。

1. 差止めの対象とすべき実体法の規定について

 今回の消費者団体訴訟制度の国民生活審議会での検討においては、対象とすべき実体法について消費者契約法を基本とすることに賛成します。さらに、民法第1条第2項(信義則)、民法第90条(公序良俗)、民法第96条(詐欺、強迫)に抵触する契約条項ならびに勧誘行為についても対象とすべきです。消費者契約法は、民法の特別法であり、双方の法律とも私人間の権利義務を規定する性格を有しています。消費者契約に関する消費者被害について、現行の消費者契約法では救済できないものでも、上記のような民法の条項によって救済が可能となる例もあることから、これらの民法の条項に抵触する契約条項や勧誘行為についても差止めの対象とすべきと考えます。

2. 具体的に差止請求の対象とすべき行為等
  1. (1) 不当な勧誘行為の差止について
    不当な勧誘行為を差止の対象とすることに賛成いたします。
    なお、勧誘行為の差止については、組織的な行為かどうかを原告が立証することは大変困難です。原告に対して、組織的な行為であることの立証を求めるような規定とはしないことを求めます。
  2. (2) 「推奨行為」について
    事業者団体等によって「推奨」された契約書の中に不当な契約条項が含まれていれば、その契約条項ならびに、「推奨行為」そのものを差し止めることができるようにするべきです。
  3. (3) 差止めを認めるべき相手方
    契約当事者である事業者だけでなく、実際に勧誘行為を行なう代理人や受託者についても差止の効果が及ぶような制度とすべきです。
  4. (4) 認可約款について
    認可約款についても、消費者契約法の対象とされており、司法判断に服することをふまえ、差止対象から除外すべきではありません。
3.適格消費者団体の要件の在り方~事業者等からの独立性について

 影響を排除すべき「事業者等」については営利目的の事業者とすべきであり、非営利事業者を含めるべきではありません。

 非営利の事業者まで、その対象とした場合には、生活協同組合や、事業活動を行なっている消費者団体、ならびに個人事業者としての弁護士・司法書士なども含まれることになります。これらの非営利事業者の参加がなくては、専門的力量を持ち、一定の組織基盤、財政基盤、人的基盤を持った消費者団体を構成することは、現実的に不可能です。

 また、適格団体について、非営利の事業を行なうことを認める方向であり、その団体が行なっている事業との関係で、競合する事業者に対する不当な訴えでないかどうかは、案件ごとに判断されることになります。適格団体を構成する非営利事業者の事業との関係も、同様に個別案件ごとにその正当性について判断すれば十分であり、事前の行政による適格性審査において、非営利事業者の影響排除を適格要件とする必要はないと考えます。

4.訴訟手続きのあり方
  1. (1) 適格消費者団体相互の関係について
  1. 既判力の範囲については、当該事件の当事者限りとすることでよいと考えます。
  2. 同時複数提訴については、特段の制限は必要ないと考えます。
  1. (2) 差止判決の実効性確保について
  1. 判決の援用制度については、個別消費者の損害賠償等に有効であると考えられることから、その導入を求めます。
  2. 判決の周知・公表については、消費者への情報提供として重要です。被告である事業者の費用負担によって、関係する消費者へ効果的に情報提供が行なわれる仕組みが必要です。案件によって情報提供の範囲や方法は異なると思われるので、周知・公表の方法については、案件ごとに原告の請求にもとづき裁判所が命令できる制度が求められます。
  1. (3) 管轄裁判所の決定については、被害地での提訴が可能となるようにするべきです。
5.制度の実効性を高めるための方策について
  1. (1) 消費者相談情報の提供について
    国民生活センター、都道府県消費生活センターの情報提供について、個別事業者名と案件概要のリンクした情報が適格団体に提供される仕組みが必要です。また、都道府県において相談活動の中で入手した、不当と考えられる契約条項を含む約款や、不当と考えられる勧誘行為に関する情報などが、適格団体に提供されるような仕組みも必要です。
  2. (2) 人材育成への支援について
    情報収集と一次的な法的判断ができる人材が消費者団体に確保される必要があり、そのための研修企画の具体化が必要です。例えば、すでに取り組まれている国民生活センターの消費者リーダー活動支援講座に、消費者団体訴訟制度の理解と活用を系統的に位置付けることなどが考えられます。
  3. (3) 訴訟費用面での支援について
    資金については、特に弁護士費用・訴訟費用について消費者団体への支援や負担の軽減をはかるなどの検討が必要です。例えば、自治体の訴訟費用援助制度の発展のために国が問題提起を行なうことなどが考えられます。
6.最後に

 今回の検討にあたって、主に消費者契約法に照らして不当な契約条項と勧誘行為の差止めをもとめることができる制度として設計されることについて、消費者団体訴訟制度を早期に実現するという観点から賛成しております。ただし、本制度の実現の後には、特商法・独禁法・景表法における消費者団体訴訟制度の導入の検討をすみやかに開始されることを求めます。また、消費者団体訴訟制度における損害賠償請求のあり方について、悪質な事業者の不当利得を許さない観点から研究をすすめることをあわせて求めます。

以上