消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

被害回復訴訟

順天堂大学 共通議義務確認訴訟 判決と当機構のコメント

当機構の学校法人順天堂(以下「順天堂大学」)に対する被害回復訴訟(事件番号:令和元年(ワ)第 28088 号 共通義務確認請求事件)につき、本日、東京地方裁判所か判決言い渡しがありました。

判決内容は当機構の主位的請求をほぼ認めるもので概要は次のとおりです。

判決にて認められた対象消費者の範囲

順天堂大学医学部の平成29年度及び平成30年度の入学試験の受験者で、以下に該当する者。(但し、合格者を除く)

  1. ①一般A方式に出願し、入学検定料を支払った女性及び浪人生
  2. ②一般B方式、センター・独自併用方式及びセンター利用方式に出願し、入学検定料を支払った女性

判決にて認められた損害賠償損賠の範囲

  1. ①入学検定料・送金手数料・出願書類郵送料
  2. ②対象消費者が当機構に支払うべき報酬及び費用の相当額

当機構のコメント

判決を受けて当機構のコメントは次の通りです。(PDF版はコチラ

順天堂大学に対する共通義務確認訴訟の判決を受けて

 当機構が、医学部入学試験において性別等の属性による差別的な合否判定基準による選考を行っていた順天堂大学に対し、受験料等の損害賠償義務があることの確認を求めて提起した共通義務確認訴訟につき、本日、東京地方裁判所において、当機構の請求をほぼ認める判断がなされた。本判決は、2016年10月1日に施行された消費者裁判手続特例法に基づく共通義務確認訴訟の判断であり、個々に弁護士等に依頼をして被害回復を求めることが経済的・手続的に見合わない本件のような事案において、多くの消費者に被害回復の道を開くものとして、大きな社会的意義を有するものである。

 順天堂大学は、入学試験という最も公平性が要求される局面において、募集要項等で予め明らかにすることなく、一般A方式、一般B方式、センター独自併用、センター利用の入学試験方式で、二次試験、あるいは一次試験と二次試験の両方の合否判定において、単に女性であることや、高校卒業から年数が経過しているといった属性のみを理由に、差別的な取り扱いを行っていた。

 そして、順天堂大学は、本件訴訟において、①私立大学には広範な裁量があるとか主張した上、女子寮が少なく、女子寮の室数内に収まるように合格数を調整する必要がある、入学試験時点では女性受験生は男性よりコミュニケーション能力が高いが在学中にその性差が縮小される、医師として活躍するのは卒業後10年後であるから浪人年数の多い受験生より少ない受験生のほうがよい、浪人年数の多い学生が多い医学部の国家試験の合格率が低い等を理由として、差別的な合否判定基準には合理性があると主張していた。そして、②合否判定基準は事前に公表できないとして開示義務を否定した。また、③私立大学としては学費が安いことや質の高い教育カリキュラムが行われ国家試験の合格率が高いから、受験生は差別的な合否判定基準に関わらず順天堂大学を受験したはずと主張し、開示義務違反と損害との因果関係を否定し、全面的に責任の有無を争っていた。

 しかしながら、本判決は、順天堂大学の上記のような主張を一蹴し、①同大学が行っていた性別等の属性による差別的な合否判定基準は、憲法14条1項や大学設置基準2条の2の趣旨等に反するものであると判断した。さらに、②事前に説明されない限りは、性別等によって一律に不利益に扱われることはないとの期待を受験生が有しており、その期待は、法的保護に値するものとした。そして、入学試験の評価において考慮する旨を告知すべき信義則上の義務を負うものとした。また、③上記の義務違反と損害との関係については、属性に基づき合否の判定に実質的な不利益を被ることが事前に判明していれば、一般的に、受験生は試験に出願しなかったといえる関係があると認めた。

 本件訴訟は、制度上の制約により、平成29年度及び平成30年度の入学試験に限定した請求とならざるを得なかったものであるが、内部調査委員会の報告書によれば、順天堂大学は、少なくとも平成25年度入試以降は、かかる差別的な合否判定基準による選考を行ってきたとされており、長年にわたる順天堂大学の違法行為は、医学部の入学試験に対する信頼を大きく損なうものであると同時に、多くの受験生らの真摯な努力を大きく踏みにじるものであって、到底、許されるものではない。

 当機構としては、学校法人順天堂大学においては本判決を真摯に受け止め、これ以上争うことなく、簡易確定手続に進み、一日も早く、受験生らに被害回復がなされるよう、強く要望するものである。併せて、制度上の制約により、本件訴訟の対象外となった平成28年度以前の受験生らに対しても、本制度外において、返金対応すべきである。

 そして、平成29年度及び平成30年度に順天堂大学の医学部入学試験を受験した者で、差別的な合否判定の対象となった属性の受験生においては、本判決が確定した後に開始される簡易確定手続に積極的に参加されるよう、呼びかけを行うものである。

2021(令和3年)9月17日
特定適格消費者団体
特定非営利活動法人 消費者機構日本
代表理事 副理事長 佐々木幸孝