消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

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第17回 通常総会 記念企画 開催報告

 下記のとおり、第17回通常総会記念企画を開催したことをご報告いたします。

1.日 時
2021年6月11日(金) 18時45分~20時30分
2.会 場
オンライン開催(主婦会館プラザエフ 5階会議室)
3.参加者
92名(事務局を含む)
4.テーマ
「消費者団体訴訟制度(被害回復)の原状と課題」

報告概要

 消費者裁判手続特例法が施行されてから間もなく5年となります。この間、4件の訴訟が提起されました。また、裁判外の取り組みの成果も生まれています。これらの取り組みを通じ、同法の改正課題が明らかになってきました。そして、消費者庁は消費者裁判手続特例法等に関する検討会を設置し、法改正課題について検討を始めています。

 そのような中、当機構における消費者裁判手続特例法の活用状況を報告し、今後の制度改善の課題を話し合うオンラインシンポジウムを行いました。

(1) 報告 集団的被害回復の取り組みと課題認識

① 医大事案について 報告者 弁護士 本間紀子さん(当機構訴訟代理人)

<報告の概要>

 医科大学の入学検定において女子や浪人生等を差別していた不正入試問題で、文部科学省が調査し不適切と指摘されたのは10校あるが、その内、当機構では4校について申入れ等の取組を行っている。東京医科大学と順天堂大学に対しては、裁判外の申入れを行ったが解決のめどが立たず、訴訟を提起した。昭和大学と聖マリアンナ医科大学は、当機構からの裁判外の申入れに対し、最終的には、東京医科大学の判決を受けて大学側から自主的に返金することとなった。

 医大訴訟の特徴としては、対象消費者の把握が比較的容易と考えられること、勝訴すれば回収可能性が高いと考えられること、属性による得点調整が行われていた事実等の立証につき、第三者委員会の報告書を活用できたこと等が挙げられる。ただし、東京医科大学は一次試験不合格者の出願書類を廃棄しており、全ての対象消費者の氏名・連絡先等を把握することができないという問題が発覚した。

 判決は、東京医科大学事案については、入学検定料、受験票送料等、及び特定適格団体に支払うべき報酬・費用等相当額について、事業者に対し損害賠償の支払い義務があることを認めた。一方、受験に要した旅費や宿泊費についての請求は支配性の要件を満たさないとして却下された。支配性の要件の判断が厳格に過ぎると言える。現在、簡易確定手続が進行中であり、近日中に和解が成立する見込みである。

 また、順天堂大訴訟は令和3年9月に判決言渡予定である。

② 情報商材事案について 報告者 弁護士 瀬戸和宏さん(当機構訴訟代理人)

<報告の概要>

 インターネットを通じて虚偽あるいは著しく誇大な効果を強調した説明を行い、それを信じ、誤認した消費者が(株)ONE MESSAGEから情報商材を購入した事案。(株)ONE MESSAGEおよび勧誘に関与した泉忠司氏に対し、「仮想通貨バイブルDVD5巻セット(VIPコースを含む)」および「パルテノンコース(ハイスピード自動AIシステム及びこれに付帯するサービス)」の購入代金の返還を求め、2019年4月、共通義務確認請求訴訟を東京地方裁判所に提起した。

 (株)ONE MESSAGE等による広告・勧誘の違法性が被害者に共通であることから、当機構では、情報商材被害は特例法による救済に適するものと考えたが、残念ながら第一審においては、本件情報商材の被害者(購入者)に過失があり、過失相殺をすべき事案でないとは言えず、且つ過失の程度は被害者の事情によって異なる等として、消費者裁判手続特例法の訴訟要件である「支配性」を満たさないとし、2021年5月14日、却下判決が言い渡された。しかしながら、(株)ONE MESSAGE等による勧誘は、説明内容と本件情報商材の実際の内容とに著しい齟齬がある一方、購入者(被害者)がこの齟齬を事前に認識することは困難である。過失相殺を前提に支配性がないとする考え方は受け入れられないことから、5月27日に東京高等裁判所に控訴した。

(2) 特例法検討会の状況報告

報告者 消費者庁 消費者制度課 政策企画専門官 伊吹 健人さん

<報告の概要>

 「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」の附則に、施行後3年の状況等を勘案し、法律の規定等について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるとある。これまで、手続追行主体である「特定適格消費者団体」として3つの団体が認定され、5事業者に対して共通義務確認の訴えが提起された。そのうち、第1号事案について、特定適格消費者団体の請求を認容する判決が確定し、簡易確定手続が開始されるなど、消費者裁判手続特例法に基づく消費者団体訴訟制度は消費者被害の救済に向けて機能しているものと考えられる。また、消費者裁判手続特例法施行後、特定適格消費者団体から返金の申入れを受けた事業者により任意の対応が行われ、訴えの提起に至ることなく被害が回復されるといった動きもみられるところである。その一方で、消費者裁判手続特例法が実際に運用される中で見えてきた課題等もある。

 そこで、消費者庁では、2021年3月より、消費者裁判手続特例法等に関する検討会において、消費者裁判手続特例法等について、同法の運用状況を踏まえつつ、消費者にとっての利用のしやすさ、特定適格消費者団体の社会的意義・果たすべき役割等の多角的な観点から検討を進めている。

(3) パネルディスカッション 特例法改正論点ついて

 当機構で取り組みを行っている事案2件の報告と特例法検討会の報告を受けて、下記の3つの論点について、パネルディスカッションが進められた。

論点Ⅰ
共通義務確認訴訟に関する課題(主に支配性判断の問題点について)
論点Ⅱ
簡易確定手続に関する課題(主に対象消費者に係る情報開示の実効性確保について)
論点Ⅲ
裁判外の取り組み等
パネリスト
公益社団法人 消費者関連専門家会議(ACAP) 専務理事 坂倉 忠夫 さん
成城大学 法学部 教授 町村泰貴 さん
消費者機構日本 副理事長 佐々木幸孝
コーディネーター
弁護士 鈴木 敦士 さん
論点Ⅰ 共通義務確認訴訟に関する課題
鈴木さん:
東京医科大学、ワンメッセージ事件では、支配性に関する判断が裁判所から示されているので、問題の整理をお願いします。
佐々木さん:
東京医大の訴訟の中でも、女性等の属性による入試の得点調整に関する説明義務違反と、その結果として受験させられたという因果関係の審理が支配性の要件を充たすか、という点が最大の争点であった。また旅費・宿泊費の請求は支配性を欠くとして認められなかった。
そしてワンメッセージの判決では、過失相殺の点で支配性を欠くとして、請求が却下されている。本案の審理と並び、訴訟要件の「支配性」をクリアすることが、大きな難関という印象を持っている。
東京医大訴訟では、因果関係に関して裁判所は、受験の目的等に照らし、受験者の大部分は属性に基づく得点調整が事前に分かっていれば受験しなかったと推認できる、として個々の事情により因果関係が認められない場合を除き因果関係が認められる、とした。その上で個々の事情も簡易確定手続きの中での審理で解決可能とした。対象消費者を大きな部分で捉え、支配性の要件をクリアさせているといえる。ただ旅費・宿泊費の請求が支配性を欠くとされたが、少額でこの手続きで排斥されると回復不可能な被害であるので、何らかの指標・統計等を根拠に支配性を認める判断ができなかったかと残念に思う。
ワンメッセージ判決では、過失相殺に関して個々の対象消費者毎に仮想通貨の投資を含む投資の知識、経験の有無及び程度などを相当程度審理せざるを得ないので、支配性を欠くと結論づける。しかし過失相殺を問題とするにしても、東京医大のように対象消費者をある程度集団としてというか、抽象化しての判断を考えるべきと思う。この手続の特殊性とか立法目的などをもっと斟酌して欲しい。証拠調べの制約がきつい簡易確定手続に入る前の共通義務確認訴訟において、対象消費者や被害実情を理解してもらう人証などを行うことも検討すべきか。
鈴木さん:
企業が自主返金をすることがあるが、消費者の個々の事情がある場合にどのように考慮しているか。
坂倉さん:
企業が自主返金する際には、対象者が1人か2人の場合は個々の事情を考慮するが、多数の場合は個別の対応は現実的には難しい。実際の損害が個別に異なる場合でも一定の基準を作って対応している場合が多いのではないか。慰謝料を払う場合は個別に判断することはそもそも難しい。
鈴木さん:
支配性の要件についてはどのように考えていったらいいでしょうか。
町村さん:
大規模な公害や薬害などの事件の裁判実務では慰謝料でも積極損害ですら「包括一律請求」が認められている。消費者裁判手続特例法では大昔の実損積み上げ方式のようなことを絶対の前提にしているが、新しい制度であるのに昔に立ち帰ろうとしているのだろうか?現在の裁判における判断枠組みと違う印象である。
消費者庁の1問1答では、共通義務確認訴訟において損害額の確認をしないという解釈であった。ただし、例えば消費者契約法9条1号で、平均的損害額を超える部分の返還義務確認という場合は、その額が問題になる。しかし、そのような場合を除けば、共通義務確認訴訟の段階で、何を損害とするか、旅費交通費を含むかということは、本来判断の対象にならないはずだったようにも思われる。
包括的一律請求というのは「茶のしずく事件」でも認められていた。多数の被害者がいる裁判において包括一律請求が認められるのは、共通の原因に基づいて多数の被害が生じた場合、ひとりひとりについて、個別的に損害を考えていたのでは、訴訟経済上耐え難い、ということが基本の考え方となっている。こうした考え方は集団的消費者被害回復裁判にも馴染むものなのに、ひとりひとりの損害が異なるからといって、支配性に欠けると考えるのは、令和の時代の法制度には馴染まないといわざるをえない。
ワンメッセージの情報商材は、裁判官から見れば儲かると思う方がおかしいと感じるのだろうが、中身がまったくないような情報商材を儲かると信じ込ませて販売していること自体が公序良俗違反ではないか。公序良俗違反で無効ということになると、取消権の時効の壁も突破できるし、不当利得であって過失相殺も考慮の必要がなくなる。
佐々木さん:
対象消費者ごとに損害を積み上げて計算する方式だと、この制度を生かせない。多数の被害を一括して回復するという観点から、この手続きを動かしていかないといけない。町村先生のお話のように、包括的一律請求の考え方を取り入れないといけない。
鈴木さん:
二段階訴訟制度は、共通義務の確認と個別の被害額の確定を分けて行う制度であり、個別争点がある事案を取り込めるようにしたものである。支配性の要件を判断する際には、二段階目でどのような審議をするのか、裁判所は、もう少し深く検討すべきであると思う。
論点Ⅱ 簡易確定手続に関する課題
鈴木さん:
簡易確定手続きに関する課題で、情報開示の実効性確保について問題提起をお願いします。
佐々木さん:
東京医大訴訟では、対象消費者が推定約5,200人もいたが、第1次試験の合格者の連絡先しか残っておらず、その結果、約560人分の債権しか届出できなかった。訴訟外交渉をした昭和大学は全受験生の連絡先情報を持っていたので、受験生全員に対して個別通知を行うことができ5,232人に返金された。
つまり、事業者が消費者に関する情報を有しているか否かは、被害回復を実現する上できわめて重要で、廃棄される前に情報を確保する対策が必要となる。提訴前の証拠保全等の現行制度の利用、事業者が保持している情報を消費者団体が把握すること、又は廃棄を防止できるような立法措置の検討が必要。また事業者が団体に情報を開示できないような場合には、それを補うようなマスコミ等を利用した対象消費者への呼びかけ等の公報手段を求めることができる制度の検討も必要と思う。
鈴木さん:
企業の個人情報管理状況と訴訟のために個人情報を保管しなくてはいけない制度ができた場合の企業が問題と感じる点について紹介ください。
坂倉さん:
企業は、不必要な個人情報を保持せず削除するのが原則だが、必要な個人情報は保有して活用しても良い。その場合は消費者の了解をしっかり得て管理することが必要である。訴訟のために情報を保管するという制度が出来た場合は、一般的な企業であれば、大きな問題というのは無いと思う。ただ、情報保有のキャパ、個人情報管理の体制・仕組み、社員の管理意識などがないと、新たに情報漏洩リスクの問題が発生する。
鈴木さん:
証拠保全ができるのか、あるいは、情報を保管しておくように求めるというのは制度としてどんな方法が考えられるか?
町村さん:
解釈論としては証拠保全より仮処分だと感じる。特例法28条の情報開示請求権が実体法上の請求権であると考えれば、それを保全するための仮処分が考えられる。例えば、プロバイダに対して発信者情報開示を求める訴訟でも、ログなどの保存の仮処分も一般的に行うことができる。立法論としては、もうちょっとこの制度にフィットした内容として、2021年のプロバイダ責任制限法改正で創設された情報保管命令のようなことを出せる制度も作ったらと思う。
佐々木さん:
実際にこの手続きを使ってみて、対象消費者に関する情報の確保が非常に重要であることを痛感している。ともかく対象消費者の被害を回復するために、ご指摘のあった仮処分も含めて使える手段はなんでも試みていく必要があると考えている。
論点Ⅲ その他(裁判外の取り組み、特定認定要件)
鈴木さん:
裁判外での解決事例について事例を紹介しながら説明をお願いします。
佐々木さん:
訴訟外の解決事例6件を資料に記載したが、2事例について報告する。1事例目はアパートなどのサブリース会社の事例で、契約前に30万円の申込金を支払うが、契約まで至らない時にはこれを返還しない規定になっていた。消費者契約法9条1号にもとづき差し止め請求を行い、条項は削除された。そこで、今まで払った人に返金を申し入れたが受け入れられず、訴訟の準備をしていたところ一転して返金することになった。問題は、法律施行後に契約した421人には個別通知が当該事業者から送られて344人が返金を受けたものの、法律施行前の契約者については個別通知が行われず、ホームページ上の告知だけであったため返金を請求する人が134人に止まったことだ。個別通知の重要性がわかる。
2事例目は司法試験のオンライン講座を行っている業者。使用しているテキストの中で、ほかの書籍から不正に利用した記述が載せられていたということが出版社の指摘で発覚し、受講生との間で受講料の返還がトラブルになっていた事案である。受講済みの期間も千差万別で、受講が終わった部分に関して受講契約の債務不履行とまでいえるかなどという問題もあり、しかも司法試験を翌年に控えていて緊急性が高いということから、未受講分に関するキャンセル規定に絞って短期に集中的に交渉をおこなって解決したケース。
訴訟以外での解決事例では、合意書などは取り交わしていないが、事業者が約束を破った場合は訴訟を提起するということが、実効性の担保になっていると思う。厳格な訴訟上の和解の場合とは異なり、訴訟外では割合自由に解決を図れる。
なお、訴訟外の解決では一方的に返金を始めてしまうという事業者もあり、そういう時に事業者が誠実に対応しているのかどうかわからないと問題もある。
鈴木さん:
裁判外の交渉で解決する場合、事業者から見たメリットとデメリットは?
坂倉さん:
裁判外で解決できれば、裁判に要する時間や費用などの負担が軽減できるし、内容も公開されずマスコミの報道も少なくて済む。レピュテーションリスクが減少し、企業のダメージを少なくすることができるというメリットがある。実際に企業が消費者へ被害を与えたということであれば、デメリットはまず存在しないと思う。しかし、個別企業の立場をはなれて考えると、交渉して解決した消費者の方以外にも同様の被害を受けた消費者がいる場合、その人たちへの対応がどうなるのか、疑問あるいは不安が残る。これは社会のデメリットといえるのかもしれない。
鈴木さん:
和解の適正の確保で、制度的にはどんなようなことが考えられるか?
町村さん:
現行法では和解の可能性を厳しく限定し、特定適格消費者団体相互の牽制や行政庁の監視によって適正を確保しようとしているが、その結果、和解ができない状態になっている感もある。和解で早く解決したいと企業も消費者や団体も望んでいても、望まれる和解内容を交渉で作り上げることはできないようになっている。団体の判断で和解を結んで、一定の解決金を定められるような思い切った方法が必要である。
佐々木さん:
町村先生がおっしゃったこと、まさにその通りだと思う。
本日のシンポジウムでは今後の方向性に関して様々な示唆が得られたのではないかと思う。私たち消費者団体としては、少額多数の消費者被害の回復を目指すというこの制度の意義を、今一度しっかりと心に刻み、活動を進めていきたい。

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