消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

イベント等

第1回事業者セミナー
「消費者基本法で期待される消費者志向経営と消費者団体訴訟制度の骨格について」開催報告

 消費者機構日本では、消費者志向経営の促進のため、消費者政策等に関するセミナーを事業者の方々を対象に企画・開催しております。
 3月9日に開催いたしました第1回事業者セミナーの概要について掲載いたします。

 消費者トラブルの急増や企業不祥事の多発を背景に、昨年6月に消費者基本法が改正され、CSR・コンプライアンスなど消費者志向経営の重要性が指摘されています。また、現在国民生活審議会消費者政策部会では、消費者被害の拡大防止や市場の公正化のための1つの手段として、消費者団体訴訟(団体訴権)制度についての検討が進められています。今回は、消費者政策部会消費者団体訴訟制度検討委員会メンバーでもある坂東俊矢さん(京都産業大学大学院・法務研究科教授)と鹿野菜穂子さん(立命館大学・法学部教授)に講演をお願いしました。

坂東俊矢さん(京都産業大学大学院・法務研究科教授)

 まず坂東先生には、「消費者基本法から期待される消費者志向経営」についてお話いただきました。昨年の消費者基本法改正は、議員が積極的に議論に参画し議員立法という形で行われたこと、国際消費者機構(CI)がうたった「消費者の8つの権利」を具体化した内容であり国際的背景を持った改正であること、行政・事業者・消費者3者の関係を従来とは違った視点で見直したものであること、の3つが特徴であり、消費者基本法は消費者政策のみならず、広く言えば経済政策の考え方を示すものであると指摘されました。
 一方で消費者「契約」被害は依然として増えており、消費者が契約不信に陥るのも仕方がない実態であるとともに、企業不祥事の続発は消費者被害がもはや「悪質な事業者」だけの問題ではないことを示しており、市場そのものが「公正」でなければ消費者問題の解決はないということ、消費者と企業の対話の必要性が増していることを指摘されました。
 また、こうした社会状況の変化を背景に、消費者法のトレンドが行政規制から民事ルールへと変化しており、消費者保護基本法の改正も、従来の行政中心型の内容から「消費者の権利」を基軸とする内容に変化したこと、新しい消費者政策が機能するためには「消費者の事業者に対する不信感をどう解決するか」という視点を基盤に据える必要があり、行政・事業者・消費者が公正な市場の創設に向けて相互に役割を果たす必要があると述べられました。
 事業者のコンプライアンスについては、「法令遵守」は当然のことであり単なる「遵法経営」とイメージするべきではないこと、消費者の信頼を得るために「法を上回る価値を実現するためにどれだけのことをしているか」を消費者に伝える努力が重要である旨を指摘されました。また、誠実な企業が報われる市場を形成するために、不当な利得が事業者に残らない仕組み・不正に関する情報が透明になる仕組み・社会が企業の社会的責任を評価する仕組みなどをつくっていくことが重要であり、消費者も権利を行使する際に企業の諸活動を評価していくことが重要であると述べられました。

鹿野菜穂子さん(立命館大学・法学部教授)

 続いて鹿野先生には「消費者団体訴訟制度の骨格とEUにおける同制度の概況」についてお話いただきました。まず、消費者問題には少額多数被害が多い、消費者と事業者との情報量・交渉力の構造的格差が存在するという特徴があり、このことが個々の消費者の泣き寝入りや被害拡大を招くとともに、公正な市場競争を阻害することによって事業者全体にも不利益をもたらすことを指摘されました。こうした状況に対し、現行制度には、多数消費者の被害を未然に防止し被害拡大を防止するための手続きが欠けており、消費者被害の拡大防止や健全な競争環境を実現していくためにも、一定の要件を備えた消費者団体に消費者全体の利益擁護のための権利行使をすることが期待されることを指摘されました。
 また諸外国の団体訴権をめぐる状況として、EUでは不公正条項指令・差止指令という2つの指令をもとに、加盟国での法整備が進んでおり、ドイツ・フランスなどでは損害賠償請求も含めて訴権行使が行われていることについて報告いただきました。さらに、現在進められている内閣府国民生活審議会の消費者団体訴訟制度検討委員会の検討状況についても報告いただきました。
 最後に、消費者団体による差止訴訟制度がもたらす影響として、本制度の導入は企業の負担の一方的加重を意味するものでは33なく、消費者の信頼と健全な市場を確保するものであること、EUでも訴訟前交渉における解決が圧倒的であり、本制度は企業側からも評価されていることを紹介され、日本における今後の課題は消費者全体の利益を代表しうる担い手団体の育成・企業の消費者対応の充実強化であると述べられました。

 最後に、消費者機構日本の品川尚志理事長より、団体訴権制度の検討が進む中で、担い手たりうる消費者組織をつくりあげる必要があるという問題意識から消費者機構日本を昨年9月に立ち上げたこと、団体会員や個人会員の持つ消費者問題情報を持ち寄りながら学習会・シンポジウム・意見書の提出などの活動を行っていること、現在組織基盤の整備を進めていることについて報告があり、事業者の方々も賛助会員として協力いただきたい旨の呼びかけが行われ、終了となりました。