消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

申入れ・要請等

アーバネスト株式会社(総合建設業  総合不動産業)の居住用建物賃貸借契約書及び重要事項説明書が、協議を経て、改善されました。

 消費者機構日本は消費者からの情報提供を受け、アーバネスト株式会社(東京都港区)に対して、当該事業者が使用する居住用建物賃貸借契約書及び重要事項説明書(以下本件約款という)について、「申入れ・問合せ」を行いました。

 その結果、合意できない条項として、「第15条(明渡し)3項」があったものの、当機構の「申入れ」の趣旨に従い、概ね本件約款が改善されることになりましたので、見解の相違について意見を付し、協議を終了しました。

 当機構の「申入れ・問合せ」内容と当該事業者の回答は以下の通りです。

1.合意に至った事項

消費者機構日本の申入れ等の内容 アーバネスト社の回答
申入れ事項① <2023(令和5)年5月17日付>
【居住用建物賃貸借契約書 特約事項】
 賃料を14日以上滞納し連絡無き時は、貸主は本件貸室内へ立ち入りができるものとする。
【申入れの趣旨】
 特約事項における上記の条項の削除を申し入れます。
【申入れの理由】
 上記特約は、消費者契約法10条に違反している蓋然性が高いと考えます。
  1. 10条の第一要件について
    上記特約は、賃貸借契約で賃借人に賃料不払い、しかも14日だけの不払いの事実があったとしても、賃貸人側が、手段を問わずに本件貸室に立ち入りを認めてよいわけではありません。日本は法治国家である以上、紛争が生じた場合、司法手続にて解決が図られるべきものです。本特約は、本件貸室への立ち入りだけであり、明け渡しまで認めるものではありませんが、貸室に立ち入る行為につき、賃貸人側の自力救済を認める結果になっています。これは明らかに消費者(賃借人)の居住権を制限し、義務を加重する条項でありますので、消費者契約法10条の第一要件を満たします。
  2. 10条の第二要件について
    賃料の支払を14日以上怠っただけでも、生活の本拠というべき住居の平穏を害されてしまうものであり、刑法の住居侵入罪(130条)に該当する違法性が強いもので、これは信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものといえますので、同条の第二要件も満たします。
  3. 消費者契約法10条に該当し無効であることから、本特約の削除を求めます。
<2023(令和5)年6月15日付>
 削除します。
申入れ事項② <2023(令和5)年5月17日付>
【約款13条(契約の解除・消滅)①】
 乙及び同居人等が下記のいずれかに該当したときは、甲はなんら催告を要せず即時本契約を解除でき、その際乙は即時本物件を明渡し返還しなければならない。
  1. ①本契約(2)に定める賃料、管理費等の支払を14日以上滞納したとき。
【申入れの趣旨】
 約款第13条①の削除を申し入れます。
【申入れの理由】
  1. 「約款」第13条①は、借主(乙)が賃料、管理費等の支払を14日以上滞納したときは無催告解除を認めるものですが、これは消費者契約法第10条に該当し無効と考えます。
  2. 賃貸借契約の解除が認められるためには、判例上、賃貸借契約当事者間の信頼関係が破壊されていることが必要であると解されています。そうとすると、賃料の支払を14日以上だけ怠っただけでは信頼関係が破壊されたとはいえません。
    そこで、同条は、信頼関係破壊の有無を問題とすることなく無催告解除を認めるものですので、賃借人の建物を使用する権利を制限することとなるため、消費者の権利を制限するものといえ、10条第一要件を満たすといえます。
    また、借主は賃貸借契約に基づき建物を使用する権原を有しています。信頼関係の破壊がない場合であっても無催告解除が認められるとすると、これにより借主は住居を失うという重大な不利益を被ることになりますので、同項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるといえ、10条第二要件を満たします。
    近時の最高裁令和4年12月12日判決(令和3年(受)第987号)においては、賃料の支払を2カ月以上怠った事案においても、これを無催告解除として認めることは、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるとの趣旨であると考えられます。
    従って、同項は消費者契約法第10条により無効ですので、同項の削除を求めます。
<2023(令和5)年6月15日付>
 削除します。
申入れ事項③(1回目) <2023(令和5)年5月17日付>
【約款13条(契約の解除・消滅)⑥】
 乙及び同居人等が下記のいずれかに該当したときは、甲はなんら催告を要せず即時本契約を解除でき、その際乙は即時本物件を明渡し返還しなければならない。
  1. ⑥後見・補佐・補助開始の審判を受け、又は破産、民事再生手続き、会社更生、精算等の申し立があったとき。
<2023(令和5)年6月15日付>
 「後見・補佐・補助開始の審判を受け」の部分に関しては、消費者契約法平成30年改正に基づき、削除します。
 後半部分の「破産、民事再生手続き」に関しては存続させる意向です。
 理由は「破産、民事再生手続き」を受けた賃借人には資力を期待できず、賃貸借契約を継続することは貸主の負債を広げることになるからです。
 「破産・民事再生手続き」の申し立ては、管轄裁判所に対して行うものであり、その時点で債務者には通常の生活を行う資力に欠ける状態であることが前提となります。
 つまり、「破産、民事再生手続き」を行うということはその時点で資力に問題が生じているという状況にあり、民法第542条(催告によらない解除)1項5項の「債務者がその債務を履行せず、債権者が前条の催告をしても契約した目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき」に該当すると思われます。
 破産管財人等が選任されてからでは、家賃全額の回収が難しいことは明白であり、居住期間が長引くほど貸主の負担が重くなるという事を考慮し、速やかな解約・退去を求める所存です。
申入れ事項③(2回目) <2023(令和5)年10月6日付>
【申入れの趣旨】
 約款第13条⑥のうち、「会社更生、精算」を除いた条項の削除を申し入れます。
【申入れの理由】
 最高裁昭和43年11月21日判決(事件番号:昭和42(オ)919)は、破産宣告を受けたときは,賃貸借を直ちに解除することができる旨の特約は、借家法1条の2の規定に反し、同法6条により無効とすべきであるとした原審の判断を正当としております。
 借地借家法においても同様に考えられます。
 そこで、消費者を賃借人として賃貸借契約の締結に当り、「破産、民事再生手続き」の条項については、削除を申入れます。
<2023(令和5)年11月16日付>
 「後見・補佐・補助開始の審判を受け」ついては、前回の回答(2023年6月15日付)のとおり、消費者契約法平成30年改正に基づき、削除します。
 後半部分の「破産、民事再生手続き」に関しては、前回の回答(2023年6月15日付)での弊社主張「存続させる意向」に加筆して、以下のとおり論拠を説明いたします。
 賃借人(個人)が「破産」をしようとするとき、自己破産における「支払不能(破産法第15条1項)」を満たしていないと行うことができません。
 「支払不能」とは、「借金の額、財産の額、収入・支出の額等」が総合的・客観的に判断されます。また、支払不能と認められるには、一時的に支払いができないのではなく、継続的に支払いが不可能であることが必要であります。
 賃貸借契約の賃借人(個人)が破産すなわち支払不能の状態となったときは、現状居住家屋に住み続けることはほぼありません。
 それは多くの方が「生活保護」を申請され、「住宅扶助額」の範囲内賃料で収まる物件に転居せざるを得なくなるからです。
 つまり、賃借人が破産(支払不能)となると、賃貸人は賃貸借契約が解約されない以上家賃収入が望めない賃貸借契約の下に置かれることになり、生活に支障を来たしかねないことになるというのが実状です。
 その意味からすると、最高裁判所判決第三小法廷(事件番号:昭和45(オ)210)の「家屋の賃借人が破産したことを理由として、賃貸人から賃貸借契約の解約を可能とした」判決は、賃借人・賃貸人の双方の利害のバランスが取れた妥当な判決と思われます。
申入れ事項③(3回目)  <2024(令和6)年1月26日付>
【申入れの趣旨】
 約款第13条⑥につき、「後見・補佐・補助開始の審判を受け」のみならず、「破産、民事再生手続き」の条項の削除も求めます。
【申入れの理由】
  1. 民法621条の廃止の意味合い
    平成16年以前の民法621条は、破産手続の開始により賃料支払いに関する不安が生じた賃貸人を保護する趣旨で、賃借人が破産した場合に、賃貸人に解約申入権を認めていた。
    しかし、賃貸人の保護は、賃借人が破産手続開始決定後に賃料を支払わなかった場合の債務不履行解除によって十分図られるため、破産法の改正に伴い、賃貸人による解約申入権の規定は廃止されている。
    したがって、現在は、賃借人の破産、民事再生手続き」の開始の事実のみをもって、賃貸借契約を解除することはできないと解される。
  2. 賃借人の破産・民事再生手続きの開始の申立を契約解除事由とする特約の効力
    また、賃借人の破産・民事再生手続きの開始の申立を契約解除事由とする特約がある場合でも、破産・民事再生手続きの開始の申立のみを理由とする解除は認められないと考えられる。当該特約は、上記のような法改正の趣旨や、賃貸人からの解約を制限する借地借家法28条の趣旨に反するため無効と考えられるからです。
    したがって、賃借人が破産・民事再生手続きの開始の申立をした場合であっても、賃貸人から契約を解除するには、賃料の不払いや迷惑行為などの債務の不履行の事実をもって解除するほかないので、賃借人の破産・民事再生手続きの開始の申立を理由とする契約解除は認められない。
  3. 最高裁昭和45年5月19日判決(事件番号:昭和45年(オ)第210号)
    この判決は、民法621条は廃止される前の最高裁判決であり、もはや通用する判例ではない。
  4. かように、賃借人に破産・民事再生手続の開始の申立があったとしても、それ自体により、直ちに賃料不払いや用法違反の事態が生ずるものではありません。それらの理由をもって賃貸借契約を解除することは、民法に規定された(541条、543条)以外の賃借人に不利な解除事由を作り出しているもので、消費者の義務を加重し賃借人の建物を使用する権利を制限することとなるため、消費者契約法10条の第一要件を満たすといえます。
    また、賃借人の生活の基盤である賃借権を実質的に奪うものであることから、信義則に反して一方的に賃借人に不利益を課すもので、消費者契約法10条の第二要件を満たすといえます。
    従って、約款13条⑥につき、「破産、民事再生手続き」の条項は、消費者契約法10条により無効といえますので、同条項の削除を求めます。
<2024(令和6)年3月29日付>
 削除します。
申入れ事項⑤(1回目) <2023(令和5)年5月17日付>
【特約事項及び重要事項説明書20】
 貸室設備等の故障・一部滅失した場合、貸主が速やかに修理・発注手配をしたにも関わらず、工事業者の部品調達等の事由により修理に日数を要する場合は、借主は家賃減額、その他の損害賠償等の請求はできないものとする。
【申入れの趣旨】
 特約事項及び重要事項説明書20.における次の条項の削除を申し入れます。
【申入れの理由】
 改正民法611条1項では、賃借物の一部が滅失したときは、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、当然に賃料減額の効果が生じる規定に改正されました。
 この点、上記条項は、強行規定ではなく任意規定と解されており、特約により変更は可能とも解されますが、賃借物の一部滅失とはいえ、それが賃貸借の重要な部分であり、生活に重要な支障がある場合にも、特約により、損害賠償請求ができないものとするのは、消費者契約法10条に反し無効と考えられます。
 消費者(賃借人)は、賃借物が一部滅失したときは、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、当然に賃料減額請求権を有していますので、上記特約及び重要事項説明書20.の規定は、消費者(賃借人)の権利を制限することとなるため、消費者契約法10条第一要件を満たすといえます。
 また、賃借人の生活の基盤である賃借権につき、厨房、浴室、洗濯場などの賃借物の一部が滅失すれば、生活に重大な支障が生じることは明らかですので、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、賃料減額の効果を認められないとすれば、信義則に反して一方的に賃借人に不利益を課すもので、消費者契約法10条第二要件を満たすといえます。
 従って、本条項は、消費者契約法10条により無効といえますので、本条項の削除を求めます。
<2023(令和5)年6月15日付>
 この条項は存続させる意向です。
 まず改正民法第611条第1項の条項が任意規定であり、一部変更可能と解することができるという点については、そのように弊社も認識しております。
 この条文に関しましては「公益社団法人日本賃貸住宅管理協会」の「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」及び全国賃貸住宅新聞等を参照して作成しており、『貸主は修繕等について合理的かつ常識的な対応を取ることを前提としたものである』こと、前述した資料においても「免責期間の設定」は認められていること等を踏まえ、弊社としては消費者契約法10条に反し無効となるものではないと考えております。
 また、同特約事項は「不可抗力の状態」で適用される事項であり、金銭債務以外の「民法第419条3項の反対解釈」より導き出されたものです。万が一、賃借物の一部が滅失して明らかに「生活に支障」が生じたときには、実務的には弊社は「居住用建物賃貸借契約書」第22条(規定外事項)、いわゆる協議事項で対応、解決しております。
申入れ事項⑤(2回目) <2023(令和5)年10月6日付>
【申入れの趣旨】
 特約事項及び重要事項説明書20.における次の条項の削除を申し入れます。
【申入れの理由】
 貴社が、主張しているガイドラインは別紙(→クリックすると開きます。)のとおりであり、このガイドラインの方が、改正民法611条1項の趣旨に沿っておりますので、ガイドラインに準拠するという規定にすることを申入れます。
<2023(令和5)年11月16日付>
 この条項は下記のとおり変更します。
 「貸室設備等の一部が滅失した場合、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が作成した「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を参照し、甲乙協議の上、賃料減額等について決定する。尚、貸室設備等の一部が故障した場合、貸主が速やかに修理・発注手配をしたにもかかわらず、工事業者の部品調達等の事由により修理に日数を要する場合は、借主は減額請求、その他の損害賠償等の請求は出来ないものとする。」
申入れ事項⑤(3回目) <2024(令和6)年1月26日付>
【申入れの趣旨】
 特約事項及び重要事項説明書20.における次の条項の削除を申し入れます。
【申入れの理由】
 貴社の条項は、消費者契約法10条により無効といえますので、削除を求めます。
  1. 貴社の主張は,貴社の責めに帰することのできない事由により修理日数がガイドラインの免責日数を超える場合には、その超えた日数分についても免責とすると趣旨と思われます。
  2. しかし、ガイドラインには「貸主・借主双方に責任がない場合も賃料の減額が認められます」とされています。この記述は、そもそも、民法536条1項により、賃借人は、賃借物件を契約の目的に沿って利用できない限度で反対給付(賃料の支払い)を拒むことが認められているからです。
  3. したがって、貴社の条項は、消費者契約法10条に違反することは明らかであり無効といえますので、削除を求めます。
<2024(令和6)年3月29日付>
 貴機構より第3回目の「申入れ」資料で添付いただきました「貸室設備等の不具合による賃料減額ガイドライン(公益財団法人日本賃貸住宅管理協会)」は弊社も確認・検討しております。
 その結果、このガイドラインの「表(A群、B群)」は参考にはするけれど、賃貸借契約に取り入れる(添付して一体化)ことは止めることになりました。ガイドラインの「使用上の注意事項」にも明記されていますとおり、「あくまでも目安を示しているものであり、必ずしも使用しなくてはならないものではございません」という前提があります。
 賃借人の「不具合による被害」に対する受け止め方は(被害者の意識)には個人差があり、いきなり「賃料を継続的に値下げして欲しい」と言ってきたり、部屋(専有部分)には住めない状況なので「一時的に過ごしたホテル代を負担して欲しい」などと突然、一方的に申入れてくることがあります。
 また、「賃料減額割合」・「免責日数」を明確にすることがかえって消費費にとって不利益を与える可能性もあります。
 ガイドラインの「使用上の注意事項」には、「但し、電気・ガス・水・設備等の供給元の責めに帰すべき事由がある場合や全壊等により使用・収益ができなくなった場合は、この限りでありません」との適用除外の項目も存在します。
 弊社としましても、借主に対しての「貸主の義務(使用及び収益させる義務、そのための必要な修繕を行う義務)」は充分認識の上対応しております。
 そのため、弊社は「貸室設備等の不具合」については協議事項とし、生じたときは個別対応して解決を図っています。
 ご指摘の特約条項(重要事項説明書 20)は、ガイドラインを踏まえて次のとおり改定します。
 「貸室設備等の故障・一部滅失した場合、貸主が速やかに修理・発注手配したにも関わらず、工事業者の部品調達等の事由により修理日数を要するときは、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会作成の<貸室設備等の不具合による賃料減額ガイドライン>を参考に、貸主・借主双方の協議により誠意をもって処理解決するものとする。」
改定前
【特約事項及び重要事項説明書20】
 貸室設備等の故障・一部滅失した場合、貸主が速やかに修理・発注手配をしたにも関わらず、工事業者の部品調達等の事由により修理に日数を要する場合は、借主は家賃減額、その他の損害賠償等の請求はできないものとする。
改定後
【特約事項及び重要事項説明書20】
 貸室設備等の故障・一部が滅失した場合、貸主が速やかに修理・発注手配したにも関わらず、工事業者の部品調等の事由により修理日数を要するときは、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会作成の<貸室設備等の不具合による賃料減額ガイドライン>を参考に、貸主・借主双方の協議により誠意をもって処理解決するものとする。

2.合意に至らなかった事項

消費者機構日本の申入れ等の内容 アーバネスト社の回答
申入れ事項④(1回目) <2023(令和5)年5月17日付>
【約款15条(明渡し)3項】
 乙は本件貸室の明渡しに際し、甲に対し移転料、立退き料等、その他名目の如何に拘わらず一切の金員を請求しない。
【申入れの趣旨】
 約款第15条3項の削除を申し入れます。
【申入れの理由】
 本条項は、甲の責めに帰すべき事由により、乙が本件貸室を明け渡さなければならなくなった場合にも、乙は甲に対して損害賠償請求や有益費償還請求権を行うことができなくなるのであり、民法に規定された(415条、709条、608条2項、196条2項)、損害賠償請求権や有益費償還請求権を奪うものであり、消費者(賃借人)の権利を制限することとなるため、消費者契約法10条の第一要件を満たすといえます。
 また、賃借人の生活の基盤である賃借権を実質的に奪われたにもかかわらず、金銭賠償や償還請求ができないものであることから、信義則に反して一方的に賃借人に不利益を課すもので、消費者契約法10条の第二要件を満たすといえます。
 従って、本条項は、消費者契約法10条により無効といえますので、本条項の削除を求めます。
<2023(令和5)年6月15日付>
 この条項には「但書」を加筆します。
 弊社「居住用建物賃貸借契約書」約款第9条(禁止行為)3項にて「本物件の増改築、改造もしくは模様替え又は、本物件の敷地内における工作物の設置及び鍵の追加設置と交換」と定めており、乙の責めにより生じたものではない経年劣化や自然損耗等、通常使用の結果発生した不具合に対する修繕等については甲の負担により対応することとしています。
 有益費償還請求は退去時に行われるものですが、契約期間中に修繕等の依頼連絡もなく、設備等の改造を行うことはそれ自体が契約違反であり、退去の際に初めて請求がなされるという事態は発生しないはずであること、有益費の償還請求権を予め放棄する特約が最高裁判決(昭和48(オ)1106号)により認められたことなどを考慮し、弊社としては申し入れがあった条文を「乙は本件貸室の明渡しに際し、甲に対し移転料、立退料等、その他名目の如何に拘わらず一切の金員を請求しない。但し、甲の責めに帰すべき事由もしくは都合により乙が退去することになった場合は除く」と文言を加筆することで対応します。
申入れ事項④(2回目) <2023(令和5)年10月6日付>
【申入れの趣旨】
 約款第15条3項の削除を申し入れます。
【申入れの理由】
 有益費償還請求権が任意規定だとしても、常に予め放棄することができるものと解することはできません。
 すなわち、有益費の金額が多額であり、借家人が消費者の場合には、上述のように、消費者契約法10条により、有益費償還請求権を予め放棄することになる約款は無効といえますので、約款第15条3項の削除を申し入れます。
<2023(令和5)年11月16日付>
 まず、前回の回答で申し上げましたとおり、弊社は本条項については「但し、甲の責めに帰すべき事由もしくは都合により乙が退去することになった場合は除く」と文言を追記することで対応します。
 貴機構よりの【申入れの理由】に「乙は甲に対して損害賠償請求や有益費償還請求権を行うことができなくなるのであり、」とございますが、損害賠償請求とは「甲の故意・過失に基づき発生した損害」に対して行われるものです。つまり、「甲の責めに帰すべき事由もしくは都合」を除いた追記文言の適用を受けるものであり、乙が損害賠償請求ができなくなるという事はございません。
 また、有益費償還請求権についてですが、有益費とは、物を保存・管理するための「必要費」と異なり、物(今回の場合は物件)の「価値を増加させる行為」であり、弊社「居住用建物賃貸借契約書」約款第9条(禁止行為)3項の「本物件の増改築、改造もしくは模様替え又は、本物件の敷地内における工作物の設置及び鍵の追加設置と交換」に該当しますので、有益費が発生することはありません。
 しかしながら、賃借人(居住者)から現状より性能を向上させる為の工作について要望を受けた際は、可能であるかを検討した上、有益費償還請求権を放棄することで賃借人(入居者)の要望を受け入れる場合もあり、このことは消費者契約法に反するものではありません。
 尚、前述しました「必要費」に関しましては前回の回答にも記載しました「乙の責めに生じたものではない経年劣化や自然損耗等、通常使用の結果発生した不具合に対する修繕等」については甲の負担により対応いたします。
申入れ事項④(3回目) <2024(令和6)年1月26日付>
【申入れの趣旨】
 約款第15条3項の削除を申し入れます。
【申入れの理由】
  1. 本条項は、甲の責めに帰すべき事由により、乙が本件貸室を明け渡さなければならなくなった場合にも、乙は甲に対して損害賠償請求を行うことができなくなるのであり、民法に規定された(415条、709条)、損害賠償請求権を奪うものであり、消費者(賃借人)の権利を制限することとなるため、消費者契約法10条の第一要件を満たすといえます。
    また、賃借人の生活の基盤である賃借権を実質的に奪われたにもかかわらず、金銭賠償ができないものであることから、信義則に反して一方的に賃借人に不利益を課すもので、消費者契約法10条の第二要件を満たすといえます。
    従って、本条項は、消費者契約法10条により無効といえますので、本条項の削除を求めます。
  2. この点、貴社は、有益費用償還請求権につき、「価値を増加させる行為」は、約款9条の3項に該当するので、有益費が発生することはないので、有益費償還請求権を議論する余地はないとの見解のようである。
    しかし、約款に違反する行為、つまり、債務不履行により賃貸借契約を解除された賃借人に対しても、賃貸人は有益費償還義務を負うのかということが問題となる。
    この点、有益費償還請求権が賃借人に認められている趣旨から考えれば、有益費償還請求権は、賃借人の支出した有益費によって、賃貸目的物の価格が増加したままでは賃貸人が不当に利得をすることになり、これを返還するのは当然であるとの考え方に基づいているものである。
    そうとすれば、賃貸借契約が期間の満了等により正常に終了した場合に限らず、賃借人の債務不履行という賃借人の違法行為により終了した場合であっても有益費償還請求権の行使は可能であると解されます。
    したがって、有益費が発生する行為は、約款に違反する行為だから、本件賃貸借契約においては、有益費償還請求権は発生しないという理屈は成り立たないのである。
    約款に違反していようが、賃貸目的物の価格が増加している限りは、賃貸人が不当に利得をしていることになり、これを返還しなければならないのは、当然なのである。
  3. かように、有益費償還請求権についても、上記1.において述べたことは妥当するのであり、本条項は、消費者契約法10条により無効といえますので、本条項の削除を求めます。
<2024(令和6)年3月29日付>
 約款第15条3項の文言は、実質的な「有益費償還請求権を予め放棄する」条項であります。
 これは、第1回目の「回答書(2023年」6月15日付)」でもご説明しましたように、最高裁判所判決(昭和48(オ)1106号)で認められていることであります。
 また、賃借人に有益費償還請求権を認める趣旨が不当利得の法理にあり、民法第608条が任意規定であることから、有益費償還返還請求権の全部を放棄することも可能であると解されています。
 貴機構は、賃借人が「約款に違反する行為」をして、つまり、約款第9条(禁止行為)3項に違反して「本物件の増改築、改造もしくは模様替え」を行っても、「賃貸目的物の価値が客観的に増加している限りは、賃貸人が不当に利得していることになり、これを返還しなければならないのは、当然であると考えております」と主張されます。
 しかしながら、この「賃貸目的物の価値が客観的に増加している限りは、賃貸人が不当に利得していることになり、これを返還しなければならないのは、当然であると考えております」という部分について同様の事例を弁護士が紹介した記事がございますが、「有益費償還返還請求権が賃借人に認められている場合」を前提としており、その点において貴機構と大きく異なります。
 本件は、貴機構が削除を求めています「約款第15条3項」において「有益費償還請求権を賃借人に認めていません」ので、貴機構の主張は前提を欠いており失当であると申し上げます。
 仮に、貴機構の主張をそのまま容認すれば、賃借人が約款第9条3項に違反し、賃貸人に無断で増改築・改造を行い、それに数百万円の費用がかかっても、それを賃貸人は返還しなければならなくなり、賃貸人はこの上ない賃借人の理不尽さを被ることになります。
 この点を、消費者庁に確認したところ。「有益費償還請求権」を認めている民法第608条2項は、民法第1条(基本原則)2項の「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」という、いわゆる「信義誠実の原則」を大前提としていますとの回答でした。この原則は、「社会の一員として、互いに相手方の信頼を裏切らないように、誠意をもって行動をしなければならない」という民法の基本原則の内の一つです。消費者庁の回答は、「司法の個別の判断もあるかもしれませんが」と前置きをして、この原則に反した「約款に違反する行為」をした賃借人の「有益費償還請求権」は消費者契約法も含め保護するに値しないとの見解でありました。
 貴機構のこの条項が消費者契約法第10条の「消費者(賃借人)の権利を制限すること」及び「一方的に賃借人に不利益を課すもの」に該当するという主張に関しましては、上記で述べましたとおり「有益費償還請求権を予め放棄する」ことは最高裁判所が認めたことであり、消費者契約法第10条には抵触しないものと思われます。
 尚、1回目・2回目の回答書にて申し上げましたとおり、「但し、甲の責めに帰すべき事由もしくは都合により、乙が退去することになった場合は除く」との文言を加筆改定する予定であります。
申入れ事項④(4回目) <2024(令和6)年5月20日付>
 乙は本件貸室の明渡しに際し、甲に対し移転料、立退き料等、その他名目の如何に拘わらず一切の金員を請求しない。
【申入れの趣旨】
 約款第15条3項の改定を求めます。
【申入れの理由】
 貴社の回答では、賃貸人の了承を得て有益費を支出し、本件貸室の退去当時において、賃貸物件の価値が客観的に増加していることが認められる場合であっても、有益費償還請求権を行使できなくなってしまいます。この点を勘案のうえ条項の改定を求めます。
 有益費償還請求権を予め放棄する条項の削除を求めましたが、2024年3月29日付けのご回答においても、最高裁昭和49年3月14日判決の存在を理由に、つまり、同判決では、有益費償還請求権は任意規定であって、予め放棄する旨の特約は(旧)借家法第6条により無効であると解することはできないと判示していることから、今回も削除しないとの回答をいただきました。
 しかし、消費者契約法は、上記最高裁判決の後、平成13年4月1日に民法の特別法として施行されたものであり、消費者契約である賃貸借契約において上記最高裁の解釈が妥当するものとは考えられません。
 平成13年4月1日に消費者契約法が施行されたからには、有益費償還請求権を予め放棄する旨の特約が無効か否かは、消費者契約法第10条の問題となり、上記最高裁判決を理由として有効であるとの解釈は到底容認されません。
 確かに、貴社が懸念されているとおり、この条項を削除した場合、賃借人が賃貸人に無断で増改築・改造を行い、それに数百万円の費用がかかり、その後すく退去した場合には、賃貸人が理不尽を被る可能性は否定できません。貴社の回答に「但し、甲(貸主)の責めに帰すべき事由もしくは都合により、乙(借主)が退去することになった場合は除く」との文言を加筆改定する予定とあるものの、これでは、賃貸人の了承を得て有益費を支出し、本件貸室の退去当時において賃貸物件の価値が客観的に増加していることが認められる場合であっても、有益費償還請求権を行使できない条項になってしまいます。
 賃貸人の同意を得た場合であっても有益費償還請求権を行使できなくなるのは酷であります。再考の上、改定いただきたく改めて申入れを致します。
<2024(令和6)年6月19日付>
 貴機構よりの【申入れの趣旨】に「賃貸人の了承を得て有益費を支出し、本件貸室の退去当時において、賃貸物件の価値が客観的に増加していることが認められる場合であっても、有益費償還請求権を行使できなくなってしまいます。」との記載がございますが、誤解が生じているようですので以下のとおり再度ご説明申し上げます。
 弊社は「居住用建物賃貸借契約書」第9条3項で「本物件の増改築、改造もしくは模様替え又は、本物件の敷地内における工作物の設置及び鍵の追加設置と交換」を「禁止事項」として定めており、実務上この禁止規定事項である行為が行われたことはほとんどありません。また、賃借人(入居者)の退去毎に居室の用に足る改装を行っております。
 貴機構が申し入れている「第15条3項」は第9条の禁止事項に違反して増改築、改造もしくは模様替えといった行為を排除するとともに、万が一そのような違反行為が行われた場合に対応処理することを主旨とした条項です。
 これは2024年3月29日付の「居住用建物賃貸借契約書及び重要事項説明書に係る申入れ(3回目)」に対する回答書」の【申入れ4】で説明しました消費者庁の回答である「約款に違反する行為をした賃借人の有益費償還請求権は、消費者契約法も含め保護するに値しない」のとおりです。
 貴機構が主張する「賃貸人の了承を得て有益費を支出」という概念は、弊社契約書において入る余地がございません。
 尚、本条項の「禁止事項」及び「排除」という組み合わせの構成は、公益社団法人全日本不動産協会の「居住用建物賃貸借契約書」においても使用されているものです。
 よって、これまでの3回に及ぶ「回答書」にて申し上げましたとおり、弊社は第15条3項に「但し、甲の責めに帰すべき事由もしくは都合により、乙が退去することになった場合は除く」との文言を加筆改訂する予定です。
問合せ事項①(5回目) <2024(令和6)年10月28日付>
【お問合せ内容】
 回答書(本年6月19日付)に対する当機構の見解は次に記載のとおりです。それに対する貴社の御回答をお願いします。
【当機構の見解】
  1. 約款第15条(明渡し)3項の削除の申入れに対する貴社の回答(6月19日付)について
    1. ①「価値を増加させる行為」は、第9条(禁止行為)3項に該当するので有益費償還請求権を議論する余地はないとの見解です。
    2. ②第15条3項に但し書きの文言を加筆改訂する予定です。
      「乙は本件貸室の明渡しに際し、甲に対し移転料、立退き料等、その他名目の如何に拘わらず一切の金員を請求しない。但し、甲の責めに帰すべき事由もしくは都合により、乙が退去することになった場合は除く。」
      この但し書きの加筆いただくことにより、家主から明渡しを要請され明渡した場合、引越し費用、立退料が請求できることが明確となりました。
      しかしながら、当機構がこれまで申し入れを行ってきた有益費償還請求権の問題は解消できません。
      従って、「但し書き」を追加する修正では納得できません。
  2. 約款第15条(明渡し)3項と同第9条(禁止行為)3項との規定の整合性について
    1. ①第9条3項の規定に抵触せず、有益費償還請求権が認められる余地はあるものと考えられます。
      すなわち、必要費償還請求権と絡んで有益費償還請求権の問題が生じる余地は残されていると思われます(森田宏樹著「新注釈民法(13)Ⅰ・355頁」)。
    2. ②具体的な例
      トイレや冷暖房機機器の老朽化・故障による機器の取り替えにおいて現在の機器の機能の進歩から見れば、旧態依然であるときにこれを急遽、賃借人が必要に迫られ、取り替える事態が生じた場合です。
      これは、必要費の支出行為であり、第9条3項に抵触するものではありません。
      そして、取り替えるのであれば、新しい機能があるトイレや冷暖房機器にするのが自然の流れと思われます。
      新しい機能を有し、その分従前のものより高価なものと取り替えることになるとすれば、高価になった分は有益費償還請求権の問題が生じると思われます。
    3. ③この点、賃借人の支出した費用は過大なものとは評価できず、この部分を賃借人の負担とすることはできないものと考えられます。これは改良行為による価値の増加であり、賃貸借契約の終了時に価値の増加が現存していれば、有益費償還請求権は認められるものと考えられます。
      当然、必要費償還請求権と有益費償還請求権が密接に関連してくる場合に限定されますが、このように、第9条3項という規定があるから有益費償還請求権の問題は生じないとは言えないと思われます。
  3. 有益費償還請求権をあらかじめ放棄する特約は消費者契約法第10条に反し無効であることついて

 上記3において述べたとおり、第9条(禁止行為)3項という規定があるから有益費償還請求権の問題は生じないとは言えません。
 以下のとおり、約款15条(明渡し)3項は消費者契約法10条に抵触し無効と言える余地があります。
  1. ①消費者契約法10条の第1要件の該当性
    約款15条3項は、民法に規定された有益費償還請求権(608条2項)を奪うものであり、消費者(賃借人)の権利を制限することとなります。
  2. ②消費者契約法10条の第2要件の該当性
    また、賃借人の生活の基盤である賃借権を失うにもかかわらず、賃貸目的物の価値を増加させ、それが高額に及んでいる場合においても費用の償還が認められないのは、信義則に反して一方的に賃借人に不利益を課すものです。
  3. ③従って、本条項は消費者契約法10条に無効と言えます。
<2024(令和6)年11月29日付>
 貴機構の見解である、1①の「有益費償還請求権を議論する余地はないとの見解」、②の「有益費償還請求権の問題は解消できません」及び2の「約款第15条(明渡し)3項と同第9条(禁止行為)3項との規定の整合性について」並びに3の「有益費償還請求権を予め放棄する特約は消費者契約法第10条に反し無効であることついて」に関しまして、以下のとおり回答いたします。
 アーバネスト株式会社(以下「弊社」という)としまして、本件に関わることで可能な限り「判例、第三者の各弁護士の見解、実例等」を調査の上、項目別に検証します。
  1. [1]弊社の居住用建物賃貸借契約書の約款第9条(禁止行為)3項「本物件の増改築、 改造もしくは模様替え」について
    禁止行為を一時的に留保、つまり増改築、改造若しくは模様替えを認めるとすれば、行為自体には①造作買取請求権(以下「造作」という)と②有益費償還請求権(以下「有益費」という)が発生します。
    「造作」は、賃借人が本物件に付加した造作について、特にこれが独立の存在を有し、賃借人の所有に属しており、且つ本物件の使用・収益に客観的便宜益を付与している場合のことです。これは借地借家法第33条で賃借人から賃貸人に対して、「買取請求権」を行使することを認めています。但し、造作するに際しては、賃貸人の同意が必要となります。
    一方「有益費」は、民法608条2項において、賃借人が行った改造工事等の結果、本物件の一部として建物構造部分となり、所有権が賃貸人に帰属することとなり、本物件の客観的価値を高める場合、賃貸借契約終了時に賃借人から賃貸人に対して償還請求ができることになっています。尚、有益費が生じる行為を行う際、賃貸人の同意は必須条件にはなっていません。しかし、有益費は必要費と違い、通常の使用に不可欠でないことから、それを拒否しても賃借人に対して酷とは言えないとされており、任意規定とされています。賃貸人の承諾なく行えることから賃借人が必要以上に価値を増加させ、それが高額に及んでいる場合にまで賃貸人にその費用を支払わせることは賃貸人にこの上ない賃借人の理不尽さを被らせることになるという観点から有益費返還請求権を予め放棄するとすることは可能とされています。
  2. [2]上記[1]において、「造作」は賃貸人の同意が必須であり、弊社は同意しない方針ですので工事は行われません。
    「有益費」が生じる行為においては、賃貸借契約に反して賃貸人の同意を得ずして改造工事等を行った場合が問題となります。弊社としましては「禁止事項」の条件付きで賃貸借契約を合意(承諾)しているので、第15条3項の「一切金員を請求しない」との排除事項で対処できるものと認識しています。
    貴機構が主張する「賃借人による設備交換」に関しては、賃貸借契約書第10条(借主の管理)第2項「乙(借主)は本物件を使用中に備え付設備に不具合があった場合、必ず甲(貸主)またはPIMサポートクラブの駆け付けサービスへ連絡をし、甲(貸主)の指定する修理業者にて復旧工事をするものとする。
    乙(借主)が上記報告を怠った場合の工事等による費用は、すべて乙(借主)が負担することとする。」で明確に定めています。
    即ち、貴機構が主張する行為はそれ自体が契約に違反するものであり、消費者庁より回答された「約款に違反する行為をした賃借人の有益費償還請求権は、消費者契約法も含め保護するに値しない」のとおりです。
    なお、貴機構は本問合せの具体例を必要費の支出であるとしながら「取り替えるのであれば新しい機能があるものにするのが自然」と述べられていますが、必要費とは一般的に「修繕しなければ通常使用するのに支障が生じる場合に支出される費用」とされています。
    今回貴機構が主張する「新しい機能があるもの」への交換費用「必要費」ではなく、「有益費」に該当します。
    しかしながら、賃貸借契約書の条文に曖昧さがあり、賃貸人の同意の有無に関わらず、賃借人独自の意思で本物件の改造工事等を行い、本物件の客観的価値が増額していた場合は、有益費償還請求権の可能性が残るという貴機構のご意見を参考に、弊社としましては条項の曖昧さで紛争を生じさせない為にも、条文に「乙は、本物件に改造工事等を行う場合の費用は自己負担とし、有益費償還請求権及び造作買取請求権は予め放棄するものとします。」を加筆いたします。
  3. [3]特約での「有益費償還請求権」の事前放棄の有効性について
    1. (1)以前の回答でもご説明しましたとおり、最高裁判所の判例(昭和46年12月23日、昭和49年3月14日)において、民法第608条2項の「有益費償還請求権」は任意規定であって、賃借人と賃貸人が締結する建物賃貸借契約において「事前に有益費償還請求権を放棄する」旨の特約は有効であると判事しており、当然下級裁判所の判例においても同様の判決がなされています。
      尚、平成13年4月1日に「消費者契約法」が施行された以降において、本件に関わる「判例の変更」は無いので、「最高裁判所の判例に従って消費者契約法第10条を解釈すべきと考えるのが通常の法律家なのではないかと思います」との弊社の顧問弁護士の見解であります。
    2. (2)消費者契約法の施行後、本契約に関わる係争は存在していますが、その裁判において「消費者契約法第10条を」引用して争い、最高裁判所の判例と異なる判決をした事案は見当たりません。各訴訟に関わった弁護士が、上記(1)の「最高裁判所の判例」を重んじて消費者契約法第10条を解釈しているからだと推察されます。一方、消費者契約法第10条に鑑みても「有益費償還請求権の事前放棄は有効である」との判例が東京地方裁判所の判決(平成18年9月6日、平成28年9月29日)で存在します。
    3. (3)通説としての弁護士の見解(論文)においても、学者が有効性を判断するための例として構築している少数説を除外して、消費者契約法第10条が「有益費償還請求権の事前放棄」を無効とするものは見当たりません。
    4. (4)実務的に行政機関は「有益費償還請求権の事前放棄」を明記した賃貸借契約書を採用しています。現在、地方行政機関が公に掲出している賃貸借契約書の一部は次のとおりです。
      1. ①北海道(知事)「建物賃貸借契約書(案)」第19条(必要経費等の請求権の放棄)⇒「乙(賃借人)<中略>支出された必要費、有益費その他の費用があっても、これを甲(賃貸人)に対し請求しないものとする。」
      2. ②新潟市(市長)「私有財産賃貸借契約書(案)」第18条(有益費等の請求権の放棄)⇒「乙(賃借人)が支出した必要経費又は有益費等があってもその償還等の請求をすることができないものとする。」
      3. ③三重県(知事)「県有財産賃貸借契約書(案)」第22条(有益費の請求権の放棄)⇒「乙(賃借人)は、<中略>賃貸借物件に投じた有益費、必要費及びその他の費用があってもこれを甲(賃貸人)に請求することができない。」
      4. ④大阪市(局長)「(案)市有財産賃貸借契約書」第13条(有益費等請求権の放棄)⇒「乙(賃借人)は、本物件に投じた有益費、必要費及びその他の費用があっても、これを甲(賃貸人)に請求しない。」
      5. ⑤福岡県(知事)「県有財産賃貸借契約書(見本)」第17条(有益費等の請求権の放棄)⇒「乙(賃借人)は、名目のいかんにかかわらず、賃貸借物件に投じた有益費又は必要費があっても、これを甲(賃貸人)に請求せず、また、移転料、立退料等の一切の金員等を甲(賃貸人)に請求しないものとする。」
    5. (5)令和4年5月18日以降のひな形として国土交通省が公表している「賃貸住宅標準契約書」においても、第8条(禁止又は制限される行為)2項にて「乙(賃借人)は、甲(賃貸人)の書面による承諾を得ることなく、本物件の増築、改築、移転、改造若しくは模様替え又は本物件の敷地内における工作物の設置を行ってはならない」と定め、その解説コメントにおいて「紛争防止の観点から、増改築等の際には原状回復の有無や『有益費償還請求、造作買取請求の有無についての事項を増改築等承諾書において事前に合意しておくことが望ましいと考えられる。』」としています。これは即ち国家行政が「有益償還請求権及び造作買取請求を無しとする」ことを認めているものです。
  4. [4]結語
    消費者庁が作成した消費者契約法の「逐次解説(令和5年9月)」において、消費者契約法第10条「消費者の利益を一方的に害する」とは「信義則に反する程度に任意規定から乖離する契約条項」と限定しています。
    「有益費償還請求権の事前放棄」の有効性は裁判所の判例が広く受け入れられており、行政機関もこの判例を採用しています。
    つまり、貴機構の主張である「有益費償還権の事前放棄は消費者契約法第10条により無効」という主張は失当であります。
    よって、弊社はこれまでの「回答書」のとおり、第15条3項に関しましては「但し、甲の責めに帰すべき事由もしくは都合により、乙が退去することになった場合は除く」との文言を加筆改訂いたします。
    また、前述いたしましたとおり、今後は「有益償還請求権及び造作買取請求権を予め放棄する条文」を賃貸借契約に追記することとします。
改定前
<新 設>
【約款15条(明渡し)3項】
 乙は本件貸室の明渡しに際し、甲に対し移転料、立退き料等、その他名目の如何に拘わらず一切の金員を請求しない。
改定後
 賃借人の有益費償還請求権及び造作買取請求権の放棄については居住用賃貸借契約書の特約事項に明記する。
【居住用賃貸借契約書(特約事項)】
 乙は、本物件に投じた有益費、必要費及びその他の費用があっても、これを甲に請求しないものとする。
【約款15条(明渡し)3項】
 乙は本件貸室の明渡しに際し、甲に対し移転料、立退き料等、その他名目の如何に拘わらず一切の金員を請求しない。
 但し、甲の責めに帰すべき事由もしくは都合により、乙が退去することになった場合は除く。

3.当機構の見解、協議終了及び公表について

消費者機構日本の見解 アーバネスト社の見解
<2025(令和7)年3月13日付>
 唯一見解の相違したままの約款第15条(明渡し)3項ですが、貴社の回答(令和6年11月29日付)は、但し書きを設け、「甲(賃貸人)の責めに帰すべき事由もしくは都合により、乙(賃借人)が退去することになった場合は除く」とした上で、「乙(賃借人)は、本物件に改造工事等を行う場合の費用は自己負担とし、有益償還請求権及び造作買取請求権を予め放棄する」を賃貸借契約に追記するものでした。
 今回の回答書においても、貴社の見解が変わらず、当機構の見解と異なっているの は大変残念といわざるを得ません。この条項につきましては、見解の相違を残したまま申入れを終了することとし、当機構の反論を併せて記載いたします。
  1. 特約での「有益費償還請求権」の事前放棄が有効との主張について
    貴社は、消費者契約法が施行された以降において、本件に関わる「判例変更」は 無いので、「最高裁判所の判例に従って消費者契約法第10条を解釈すべきと考えるのが通常の法律家なのではないかと思います」と考えるのが、弊社の顧問弁護士の見解であると主張されています。
    しかし、消費者契約法(2000年施行)以前、最高裁は有益費償還請求権の事前放 棄に関する判断を行っていますが、その後、消費者契約法が施行されてからの考え方には変化が見られます。消費者契約法第10条は、消費者の利益を一方的に不当に害する契約条項を無効とすることを規定しており、消費者保護の観点から、事前放棄条項が無効とされる可能性が高くなっています。
    1. ①消費者契約法施行後の判断
      消費者契約法施行後は、消費者保護の視点が強調され、特に消費者契約における一方的な不利益を防止するために、消費者契約法第10条(不当な契約条項の無効)が重要な役割を果たすようになりました。このため、有益費償還請求権の事前放棄条項が消費者にとって一方的に不利益なものであると判断される場合、消費者契約法第10条に基づき、その条項が無効とされる可能性が高いと考えられます。
      このような判断をするについては、当該条項のみならず、他の契約条項において消費者に利益をもたらすことをも総合的に勘案して、一方的な不利益を防止しなければならないかの観点から判断がなされるものです。
    2. ②具体的な理由
      1. ⅰ消費者契約法の目的:消費者契約法は、消費者が契約において不利な条件を強いられないように保護することを目的としています。
        したがって、賃貸契約において不動産業者が有益費償還請求権を事前に放棄させることが、他の条項をも勘案して、借主(消費者)にとって一方的に、不合理に、不利益な条件である場合、その契約条項は消費者契約法第10条に基づき無効とされる可能性があります。
      2. ⅱ不当な契約条項の無効:消費者契約法第10条は、消費者に不当な負担を強いる契約条項を無効としています。具体的には、消費者が有益費償還請求権を事前に放棄させられる場合、その費用は本来償還されるべきものであり、放棄することで消費者に一方的に不利益が生じます。このような条項が消費者契約法に基づき無効とされる余地があると考えられます。
      3. ⅲ契約自由の限界:最高裁の判例では、契約自由の原則を前提に、契約内容に関して当事者間の合意を重視する立場も取られていましたが、消費者契約法施行後は、契約条項を総合的に勘案して、消費者にとって一方的に不利益な契約条項があれば、その契約条項は無効とされるべきという傾向が強くなっています。特に消費者が一般的に不利な立場にある賃貸契約において、事前放棄の条項が一方的に有益費償還請求権を消費者から剥奪するような内容であれば、それが無効とされる可能性が十分にあるといえます。
        かように、消費者契約法施行後、消費者保護の観点から、有益費償還請求権の事前放棄を定めた契約条項が消費者契約法第10条に反すると判断される場合、その条項は無効とされる余地が十分にあります。従来の最高裁判例が事前放棄を有効とした場合でも、消費者契約法が施行された後は、その法的枠組みのもとで、消費者にとって一方的に不利な条項が無効とされることが多くなっています。このため、契約内容が消費者にとって過度に不利益である場合、事前放棄条項は無効と判断される可能性が高いといえます。
  2. 消費者契約法施行後における判例変更について
    消費者契約法施行後に、従前有効とされていた契約条項が消費者契約法に違反し無効とされた具体的な事例として、いくつかの判例があります、特に、消費者契約法第10条に基づき無効とされた事例です。従来、こうした条項は有効とされていたが、消費者契約法施行後には、「消費者の権利を不当に制限する条項」として無効と判断されました。
    1. ①事例:不当な損害賠償条項(最高裁平成23年10月27日判決)
      この判例では、消費者が購入した製品に欠陥があった場合に、販売業者が契約において定めた「不具合が発生した場合の損害賠償額を契約上定めた額に限定する」という条項が、消費者契約法第10条に基づき無効とされた事例です。従来、こうした条項は有効とされていたが、消費者契約法施行後には、「消費者の権利を不当に制限する条項」として無効と判断されました。
    2. ②事例:住宅ローン契約における不利な条項(東京地裁平成19年10月15日判決)
      消費者契約法施行後、住宅ローン契約においても、消費者に不利な条項が無効とされた例があります。この事例では、住宅ローン契約における「返済義務が残る場合に高額な違約金が課せられる」という契約条項が消費者契約法第10条に違反して無効とされました。従来、ローン契約における違約金条項は有効とされることが多かったですが、消費者契約法施行後は、そのような条項が消費者にとって過度に不利益であると判断され、無効となりました。このような事例と同じく、消費者契約法第10条に基づいて「消費者契約法第10条に基づいて「消費者に不利益を与える契約条項」は無効とされることがあります。消費者契約法施行前に有効されていた契約条項が、消費者契約法施行後に無効と判断されることは、消費者保護の強化という目的に沿った結果です。
  3. 消費者契約法施行後における判例変更について
    消費者契約法第10条は、消費者に一方的に不利益を与える契約条項を無効とすることを明確にしています。このため、契約自由の原則に基づき、従前は有効とされていた多くの契約条項が、消費者契約法施行後には無効とされることがあります。
    そこで、有益費償還請求権の事前放棄の条項についても、消費者契約法施行後は、消費者に一方的に不当な不利益を与える場合には無効とされる可能性が高いと思われます。
  4. 貴社の反論(令和6年11月29日付)について
    1. 1)貴社は、地方行政機関が公に掲出している賃貸借契約書において、「有益費償還請求権の事前放棄」を明記している旨、主張されておられます。
      しかし、④以外は、あくまで事業者を対象としたものと思われますので、消費者契約法が適用されません。
      また、④については、土地の賃貸借契約であるが、使用目的、賃料が記載されてないので、有益費償還請求権の事前放棄が、借主(消費者)に一方的に不当な不利益を与える事例か否かの判断ができません。
    2. 2)また、貴社は、国土交通省が有益費償請求権の事前放棄を認めているような主張をされておられます。
      しかし、国土交通省が公表している賃貸住宅標準契約書およびその解説コメントにおいて、有益費償還請求権の事前放棄を明確に認めているわけではありません。同省の解説では、紛争防止の観点から、増改築等を行う際には、原状回復の有無や有益費償還請求、造作買取請求の有無について、増改築等承諾書において事前に合意しておくことが望ましいとされているにすぎません。
      国土交通省の見解としては、当事者間での事前の合意を推奨していますが、具体的な条項の有効性については、消費者契約法などの関連法規の解釈に委ねられると考えられます。
  5. 結論
    消費者契約法第10条に照らして判断する場合、事前に有益費償還請求権を放棄する契約条項が消費者に一方的に不当な不利益を与えるものであれば、その条項は無効となる可能性が十分にあります。
    したがって、貴社が主張されている「判例が広く受け入れられており行政機関も採用している」という点についても、消費者契約法に基づく具体的な判断が重要です。消費者保護を重視した法的解釈が行われる可能性が高いと考えておりますので、消費者機構日本としては、貴社の回答には、到底、承服できないことを、お伝えいたします。
    このように、当機構と貴社との考えには隔たりがあり、これ以上、意見の交換をしても、意味がないものと思われますので、交渉については、打ち切りとさせていただきます。
<2025(令和7)年4月30日付>
 「当機構の反論を併せて記載」に対しまして、以下のとおり「貴機構の主張が失当であることの説明」及び「再反論」いたします。
 2024(令和6)年11月29日付で弊社が主張した中の、〔3〕の(2)に記載のとおり、平成13年4月1日に「消費者契約法」施行後の平成18年9月6日及び平成28年9月29日の東京地方裁判所の判決で「有益費償還請求権を予め放棄する条項も有効と解すべきである」・「その余の争点を検討するまでもなく、原告の有益費償還請求は、理由がない」と明言されています。
 貴機構が反論する「考え方には変化が見られます」及び「事前放棄条項が「無効」とされる可能性が高くなっています」との議論の入る余地はなく、それに沿った判例は存在しません。
 貴機構の反論①及び②において、「無効とされる可能性が高い」・「無効とされる余地がある」・「無効とされる可能性が十分」など、5回も主張されています。
 しかしながら、平成13年4月1日に「消費者契約法」施行後、「24年を経過した現在」に至っても、「有益費償還請求権の事前放棄」が同法に抵触して無効とされた判例はありません。
 「消費者契約法」の重要性は弊社も理解し、尊重した上で業務を行っております。しかしながら、貴機構が提示された①の「製品の欠陥事案」・②の「(過度に)高額な違約金」などは、本件に類似する引用例としては、明らかに不適切です。
 「消費者契約法」に基づき消費者保護を重視の観点については理解しております。しかしながら、前述しましたように、「消費者契約法」施行後、裁判所において「有益費償還請求権の事前放棄が有効」とされたことはありますが、「消費者契約法に基づき無効」との判断はなされておりません。「消費者契約法に基づき無効とされる可能性が高い」等の貴機構の主張は失当であります。

4.「有益費償還請求権の事前放棄が有効」とされた判例の出典について

消費者機構日本の問合せと見解 アーバネスト社の回答と見解
<2025(令和7)年6月13日付>
 貴社の回答書(2025年4月30日付)において「当機構の見解、協議終了及び公表に ついて(説明・反論)」の4ページの下からの4行目以降に下記のとおりご回答がありました。
 しかしながら、前述しましたように「消費者契約法」施行後、裁判所において「有益費償還請求権の事前放棄が有効」とされたことがありますが、「消費者契約法に基づき無効」との判断がなされておりません。
 平成13年(2001年)4月1日の消費者契約法施行後、「有益費償還請求権の事前放棄が有効」とされたことがあるとのご回答をいただきましたが、有効と判断されたことについて判例の出典の記載がございませんでした。
 判例の出典につきまして、貴社の文書によるご回答を2025年6月27日(金)までにお願いします。
<2025(令和7)年6月27日付>
 貴機構よりの「有益費償還請求権の事前放棄が有効」とされた判例の出典について(2025年(令和7)年6月13日付)にて問い合わせがありました「判例の出典」を添付いたします。
 なお、これらの出典については「当機構の見解、協議終了及び公表について」に対し、弊社より回答した書面(2025年4月30日弊社より発送、2025年5月1日に機構着)の1ページ目に「平成18年9月6日及び平成28年9月29日の東京地方裁判所の判決」と赤字で記載しております。
 貴機構の「『最高裁判所で有効と認められている有益費償還請求権の事前放棄』はその後に成立された消費者契約法第10条に基づき無効とされる可能性が高い」という主張に関しましては以下の点から失当であることは明らかです。
  1. (1)消費者契約法第10条は「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比例して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」というものです。
    この条項に基づき当該契約が無効となるのは、
    1. ①任意規定によれば消費者が本来有しているはずの権利を制限し、または任意規定によれば消費者が本来負うことになる義務を加重している場合(すなわち、任意規定から消費者に不利な方向に乖離している場合)であって、かつ、
    2. ②当該契約条項の援用によって、民法第1条2項で規定されている信義則に反する程度に一方的に消費者の利益を侵害する場合(すなわち、当該乖離が消費者契約において具体化される民法の信義則上許される限度を超えている場合)
      などであり、消費者契約法の逐条解説によると、その効果は「信義則に反する程度に任意規定から乖離する契約条項を、その限りにおいて無効とするもの」とされています。「有益費償還請求権」は国土交通省の賃貸借契約書が公表している「賃貸住宅標準契約書」の解説コメント(有無を論じることができるのはその項目が認められていることが前提であると考えるのが自然です)をはじめ、地方不動産協会の講習や一般的な学説で広く「有効である」とされており「信義則に反する程度に任意規定から乖離する契約条項」ではないことから、「有益費償還請求権の事前放棄」が本条項に値する余地はありません。
  2. (2)消費者契約法と個別法の私法規定が抵触する場合、個別法が優先されます(消費者契約法逐条解説より)。
    つまり消費者契約法と、個別法である借地借家法及びそれに基づく賃貸借契約では後者が優先されることになります。借地借家法において、かつては強行規定であった造作買取請求権が平成4年の改定により任意規定となったことでもともと任意規定であった「有益費償還請求権を放棄する特約」はより有効と解されやすくなったというのが一般的な見解です。
    なお、消費者契約法は借地借家法の改定後に制定された法律ですが、消費者契約法が施行された後も、消費者契約法をもって「有益費償還請求権の事前放棄が無効、もしくは法令違反」とした判決はありません。
  3. (3)賃借人は賃借物を契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、当該目的物を使用収益し、その目的物を返還するまでの間、善良な管理者の注意義務をもって保存する義務及び賃貸借契約に基づき信義則上要求される義務を負います。弊社は「本物件の増改築、改造もしくは模様替え」を賃貸借契約第9条第3項にて「禁止事項」として定めており、この条項に違反した賃借人は善管注意義務及び用法順守義務に違反するものであり、消費者契約法をはじめとする法令の保護を受けるものではありません。
    なお、弊社は賃借人が賃貸借契約の当該物件を使用収益するために必要な修繕は「貸主の責任において行う」としており、前述した「善管注意義務及び用法順守義務」を求める禁止事項は借主に不利なものではありません。
    消費者契約法は民法第1条(基本原則)2項「権利の行使及び義務の履行は信義則に従い誠実に行わなければならない」という「信義則の原則」を前提としており、この原則に反した「約款に違反する行為」をした賃借人の有益費返還請求権は消費者契約法も含め保護するに値しないものであることは弊社よりの回答書(3回目)(2024(令和6)年3月29日付)にて述べたとおりです。
    消費者契約法においては消費者自身も「信義則の原則」を順守することが求められます。
    弊社は法令、判例及び慣習法等に基づき、賃貸管理の業務に従事しております。
    先にも述べました通り、「消費者契約法に基づき有益費償還請求権の事前放棄が否定された」という判例は存在しません。
    もし、「消費者契約法により、事業者及び消費者間の契約が取り消された」判例でなく、「消費者契約法により有益費償還請求権の事前放棄が明確に否定された判例」があれば、ご提示くださいますようお願いいたします。
<2025(令和7)年8月29日付>
 貴社の「有益費償還請求権の事前放棄が有効とされた判例の出典について」に対する回答書(2025年6月27日付)において「判例の出典」を添付いただき確認させていただきました。
   対個人との賃貸借契約において「有益費償還請求権の事前放棄が有効とされた判例」は無いものと考えていますが、貴社からご指摘いただいたとおり消費者契約法によって有益費償還請求権の事前放棄が明確に否定された判例は、現時点においてございません。
 一方、貴社に提供いただいた判例は、平成18年9月6日(保証金返還等請求事件)及び平成28年9月29日(造作物買取等請求事件)のいずれも事業者との契約になります。これにより事前放棄は認めていると主張されていますが、これらは個人との契約ではないため消費者契約法が適用されません。
 貴社の居住用賃貸借契約は対個人との契約であり、今後、消費者契約法の問題になった場合、消費者契約法の条文を解釈すると問題があり、判例がでてくると考えられます。