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【2020年5月27日:掲載】

東京オリンピック・パラリンピック競技大会の観戦等を目的として予約した宿泊施設のキャンセル料に関する消費者機構日本の考え方

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東京オリンピック・パラリンピック競技大会の延期断判前の考え方

⇒キャンセル時期を考慮していないキャンセル料規定は消費者契約法9条1号無効の可能性がある

オリ・パラ大会延期判断後の考え方

⇒事情変更の原則の適用により消費者契約法10条無効の可能性がある

東京オリンピック・パラリンピック競技大会の観戦等を目的として予約した宿泊施設のキャンセル料に関する消費者機構日本の考え方

1 東京オリンピック・パラリンピック競技大会の観戦等を目的として予約した宿泊施設のキャンセル料の問題

 都内の宿泊施設の中には東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「オリ・パラ」)期間中の宿泊予約をキャンセルした場合には、宿泊料金と同額つまり100%のキャンセル料を徴収する旨を約款に定めているところが多数ありました。その後新型コロナウィルス感染拡大の影響で、オリ・パラ自体が延期となりました。このような状況のもとで予約者が宿泊予約をキャンセルした場合に100%のキャンセル料を支払わなければならないとすれば、予約者に対して酷に過ぎるように思われます。しかもオリ・パラ期間中の宿泊料金は通常期間の数倍の例もあり、予約者の被る不利益は一層深刻なものになります。

 この場合どのように考えたらよいのでしょうか。

2 事情変更の原則の適用

 民法の明文にはありませんが、①契約成立当時その基礎となっていた事情が変更したこと、②事情の変更は当事者が予見したもの、又は予見できたものではないこと、③事情の変更が当事者の責めに帰すことができない事由によって生じたものであること、④事情変更の結果、当初の契約内容に当事者を拘束することが信義則上著しく不当と認められる場合、に「事情変更の原則」により、例えば契約の解除が認められる、と考えられます。

 今回、オリ・パラが延期されたことにより、その観戦等を目的とした宿泊施設の宿泊予約に関しては、上記①~③がそのまま当てはまるように思われます。④についてもオリ・パラ期間中であるため宿泊料金が通常の時期より数倍の料金の場合もあり、しかも予約者にとってはオリ・パラが延期になり宿泊する意味が殆どないにもかかわらず、オリ・パラ料金で宿泊させるという契約内容は信義則上著しく不当と考えられます。すなわち本来予約者から、事情変更を理由にしてキャンセルできる場合と考えられます。

3 100%のキャンセル料というキャンセル規定の効力はどうなるか

 しかし宿泊施設の約款で、予約者からのキャンセルの場合、前記のように宿泊料金と同額つまり100%のキャンセル料を徴収する旨が定められているケースでは、この約款の効力はどうなるでしょう。

 事情変更の原則により、これらのキャンセル料を支払う条項自体が無効となるという考え方、あるいは事情変更の原則によれば、本来キャンセル料なしで解約できるのに違約金を徴収することは消費者の権利を制限するもので、しかも100%のキャンセル料を支払わせるという内容は、消費者の利益を一方的に害するものといえますので、消費者契約法10条により無効であると考えられます。

 その意味で、現在多くの宿泊施設が、オリ・パラ期間中の観戦等目的の宿泊予約に関しては、キャンセル規定を改めて、あるいはキャンセル規定を残したままでの取り扱いとして、キャンセル料なしでキャンセルを認める状況になっているのは妥当な取り扱いであると考えています。

4 オリ・パラ期間以外の宿泊予約のキャンセルについて

 事情変更の原則が適用される場合は、前記のとおり適用要件が狭いためオリ・パラの観戦等を目的として予約したホテルのキャンセルの場合など限られた例だけになるように思われます。

 現在、新型コロナウィルス感染拡大の影響による外出自粛要請が出ている関係で、宿泊施設などの宿泊をキャンセルする場合もあろうかと思いますが、「事情の変更」といえるか、契約当時に認識可能性がなかったか等、要件的にこの考え方をあてはめることが難しい場合が多く、別途の観点からの法律的検討をせざるを得ないと思われます。

以上