被害回復訴訟
【2025年10月22日:掲載】
【2025年11月5日:更新】
(株)ONE MESSAGE等に対する情報商材被害事件の共通義務確認訴訟 差戻控訴審の判決について ~差戻第一審に続いて消費者機構日本の請求が全面的に認められました~
東京高等裁判所は2025年10月22日、消費者機構日本の㈱ONE MESSAGE等に対する情報商材被害事件の共通義務確認訴訟 差戻控訴審の判決について、差戻第一審の判決に続いて当機構の請求を全面的に認める判断を示しました。
第1.事件の概要
本件は、Webサイトにおいて、誰でも簡単に暗号資産で利益が得ることができると誤解させ、その手法を日本初公開だと謳い解説したDVD教材などを販売し、さらに、DVD教材購入者に対して、自動AIシステムで更に利益を得ることができると虚偽の事実を告げて、その教材を販売したことで多数の消費者が被害を受けたとして、特定適格消費団体である消費者機構日本(以下、「COJ」という)が、販売業者である㈱ONE MESSAGEと販売業者と一緒になって勧誘した個人について、不法行為に基づく損害賠償義務を負うことの確認を求めた消費者裁判手続特例法(以下、「特例法」という)に基づく共通義務確認訴訟案件である。
第2.本件訴訟の経過
本判決は、最高裁による差戻後の控訴審判決である。これまで経過は以下の通りである。
- ①平成31年(2019年)4月:COJ提訴
- ②令和3年(2021年)5月14日:一審判決。特例法の訴訟要件である「支配性」がないとして、COJの訴えが却下された。
⇒COJ控訴 - ③令和3年(2021年)12月22日:控訴審判決。一審の判断が維持され、COJの控訴が棄却された。
⇒COJ上告受理申立 - ④令和6年(2024年)3月12日:最高裁判決。「支配性」についての解釈基準を示したうえで、本件は支配性に欠けることはないとされ、一審判決が破棄され、審理が差戻しされた。
- ⑤令和7年(2025年)2月28日:差戻第一審判決。以下の争点につきCOJの請求が全面的に認められた。
争点:ⅰ.訴訟要件としての「多数性」⇒認める
ⅱ.勧誘した個人の「被告適格」⇒認める
ⅲ.責任原因としての「不法行為」の成否⇒成立
⇒COJ及びONE MESSAGE等とも控訴 - ⑥令和7年(2025年)10月22日:差戻控訴審判決。COJの請求が全面的に認められた。
第3.差戻控訴審裁判の争点と裁判所の判断
一審(差戻前)の争点のうち、ⅰ及びⅲが争われた。
- 「ⅰ.多数性」について
- (1)「多数性」とは
共通義務確認訴訟においては、「共通する事実上及び法律上の原因に基づく」被害者が「相当多数」であることが訴訟要件とされている(特例法2条4号。なお、「相当多数」について、消費者庁では、「一般的な事案では数十人程度」としている。) - (2)ONE MESSAGEらの主張
多数性の要件が充足されるためには、権利行使を行う可能性が高い消費者が多数であることが必要であるが、その立証がされていない。 - (3)裁判所の判断
差戻第一審 既に被害回復がはかられていたり、対象債権を放棄していない限り、対象債権を行使する可能性があり、現に苦情を申し立てていないというのみでは、多数性を否定する主張として失当である。 差戻控訴審 商品の購入者が現に苦情を申し立てていないというだけでは、対象消費者が相当多数存在するという認定を左右しない。
対象消費者のうち多数の者が請求権を放棄したなどの事情は見当たらない。
- (1)「多数性」とは
- 「ⅲ.不法行為の成否」
- (1)不法行為該当性
Webサイトでの説明・勧誘時の説明と実際の商品や性能との間の齟齬の有無、勧誘時の説明は顧客の判断を誤らせるものであったか否か。 - (2)裁判所の判断
差戻第一審 被告らのWebサイトによる説明は、「誰でも、簡単、確実に多額の利益が得られる」「24時間365日資金を増やし続ける」という説明・勧誘であり、商品の内容や性能について著しく事実に相違する表示をし、その性能や商品の内容を社会通念上許容される範囲を超えて著しく誇張して行われたのであるから不法行為法上違法である。 差戻控訴審 差戻第一審の上記のWebサイトによる説明についての説示を相当としたうえ、「商品を購入した者の中に利益を得た者がおり、商品対して好意的な評価を示す者がいたとしても、本件における不法行為の成否を左右すべき事情とはいえない。」「商品を購入した者の中に利益を得た者がいるとしても、本件における不法行為の成否が左右されることはない」として、差戻第一審の判断を相当とした。
- (1)不法行為該当性
第4.当機構のコメント
多数性について、ONE MESSAGEらが主張するように「権利行使を行う可能性が高い、購入した商品に対して苦情を申し立てている消費者が多数存在すること要する」とすることは、多数消費者被害を回復しようとする本制度の利用についてハードルを上げ、特定適格消費者団体に訴権を認めた制度の趣旨に反するものであって、これを否定した本判決の判断は、制度の趣旨に適ったものである。
また、情報商材被害案件において、Webでの説明と実際との違いについての判断は、消費者目線から常識に適った判断であり、特に、その商材で利益を得た者がいるとしても不法行為の成立を認める判断は、他の情報商材被害案件についても参考となる。
なお、本件は、提訴以来7年が経過しており、被害の迅速な救済という点について問題なしとしない。
以上
