消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

差止請求訴訟

家賃債務保証サービスを提供する全保連株式会社に対し、家賃滞納時に「保証事務手数料」の名目で支払い義務を課す条項の差止めを求め、差止請求訴訟を起こしました。

 全保連株式会社(沖縄県那覇市字天久905番地)は、家賃債務保証サービスを提供しています。入居者が家賃を滞納してしまった時、入居者に代わって物件オーナーや物件管理会社に家賃を支払うサービスです。消費者(賃借人)との間で締結する「賃貸借保証委託契約」には、既に保証業務の対価として保証委託料を受領しているにもかかわらず、家賃滞納時に消費者に対し、求償のみならず、保証事務手数料の支払い義務を課す条項があるため、消費者機構日本は、東京地方裁判所に差止請求訴訟を起こしました。

1.差止請求の趣旨

  1. (1) 賃貸借保証委託契約に関して消費者が賃貸借契約に基づく賃料支払い債務を滞納し、貴社が賃貸人に対して同債務を代位弁済した場合、貴社が消費者に対して保証事務手数料を請求することができるという意思表示を行ってはならない。
  2. (2) 上記(1)の意思表示が記載された契約書その他一切の表示を破棄せよ。
  3. (3) 貴社の従業員に対し、上記(1)の意思表示を行ってはならないこと及び上記の意思表示が記載された契約書その他一切の表示を破棄して使用しないことを周知徹底させる措置をとることをそれぞれ請求する。

2.差止請求訴訟を提起するまでの経緯

  1. (1) 「賃貸借保証委託契約」を締結した消費者から、家賃滞納時に請求された保証事務手数料について苦情が寄せられました。

    【概要】月5万円程度の家賃の支払いが数日遅れたときに、督促状が届き「保証事務手数料2,970円(税込み)」をとられた。通常、延滞利息であれば、1か月であっても数百円程度である。利率換算すると年利73%となり、遅延損害金の延滞利息14.6%の5倍以上になる。延滞者から延滞利息と言わずに保証事務手数料として請求しているが、この保証事務手数料は実質的な延滞利息である。

  2. (2) 交渉経過
    当機構からの質問 相手方の回答概要
    2024年4月4日付:
     保証事務手数料に対する当機構の見解を前提に質問書(主に資料提供のお願い)を送付した。
     消費者(賃借人)は、家賃滞納時に賃貸人に対する遅延損害金の他に前記の保証事務手数料を負担することになる。したがって、保証事務手数料は消費者契約法9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)1項2号にいう損害賠償額の予定又は違約金である。
    2024年5月16日付:
     保証事務手数料の考え方と資料の提供があった。
     滞納家賃とその遅延損害金が請求される賃貸借契約とは別個の賃貸借保証委託契約に基づき保証事務手数料は徴収するものであり、消費者契約法第9条1項2号にいう損害賠償額の予定又は違約金ではない。
    当機構からの申入れ 相手方の回答概要
    2024年10月15日付:
     消費者から情報提供を受けた事案および上記回答を検討した結果、保証事務手数は、消費者契約法第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)1項2号及び同法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)に抵触し、不当利得の問題があるとの結論に達して申入れ等を送付した。
    2024年11月27日付:
     賃貸借保証委託契約第11条(保証事務手数料)は、消費者契約法第9条1項2号の適用は受けず、同法第10条により無効とはならない。
  3. (3) 以上のような経過から、当機構は消費者契約法第41条に基づく差止請求書を送付し2025年7月15日に相手方へ到達したことを確認しました。
    到達後、一週間経過した後も是正措置が取られなかったことから、やむなく東京地方裁判所に提訴することとしました。