消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

差止請求訴訟

再生医療・免疫療法と称する自由診療行為を行う医療社団法人サカイクリニック62(渋谷区)※に対し、インターネット上の広告表示が優良誤認表示に該当するとして差止請求訴訟を提起しました。

※カタカナ表記の「サカイクリニック62」です。類似名称の「サカイクリニック」、「さかいクリニック」、「酒井クリニック」、「坂井クリニック」、「堺クリニック」、「阪井クリニック」等々、類似する医療機関名称はたいへん多いため、名称の取り違えにはくれぐれも御注意ください。

1.本件訴訟の意義

 本件訴訟では、医療広告表示が景品表示法の「優良誤認表示」に該当するか否か、すなわち「一般消費者の自主的かつ合理的な選択の機会を阻害したか否か」を論じることになります。その中でも当機構が問題視しているのは「再生医療・免疫療法」に関する医療広告です。この医療広告と優良誤認表示の論点は、当機構の調査した範囲ではこれまで裁判例が無く、おそらく日本で初めての裁判となります。

 医療広告については、他の領域の優良誤認表示と異なり、専門性が高い要素があること、更に「自由診療」という特殊事情があるため、非常に解りにくくなっています。自由診療は保険診療とは異なり、医療機関の裁量範囲が非常に広く、それは広告にも及びます。そのデメリットとして、客観的・医学的に妥当性があるとはとても言えないような非科学的な治療が掲載される懸念があります。

 自由診療分野における消費者被害は、美容医療と歯科診療の一部(インプラント等)の領域で頻発してきましたが、最近では、再生医療分野や癌治療等の代替医療分野等の先端医療の領域に飛び火して拡大している状況にあり、本件の「再生医療・免疫療法」はその一例です。この分野の問題は、人の生命予後に直結しかねないという意味において、より深刻とも言えます。

 日本の医療規制は保険診療を対象としており、自由診療にはありません。しかしながら、自由診療であるからと言って、何でもやって良いわけではなく、その限界線はどこまでなのか、本件訴訟の論点は突き詰めるとそこになります。

 この訴訟を契機に、「自由診療の医療広告に関する優良誤認表示該当性の判断基準」の規範定立を勝ち取りたいと考えています。

2.差止請求訴訟を提起するまでの経緯

  1. (1) 当機構に医療社団法人サカイクリニック62(注)の広告表示について情報提供がありました。

    (注) 本件の対象は下記のクリニックになります。類似した名称の医療機関がありますので、くれぐれもお間違いの無いようにお願いいたします。
    医療法人社団サカイクリニック62(東京都渋谷区道玄坂)
    代表取締役  坂井 万里

  2. (2) 当機構において医療クリニックのホームページサイトの医療広告の内容と医学文献等による調査の結果、優良誤認表示該当性の疑いを持っている診療行為を具体的に特定し質問書(2024年4月4日付で回答期限は2024年5月20日)を送付したところ、同年4月12日、医療クリニックの事務担当者と思われる人物から「今後、ホームページに掲載しない。」との電話連絡があり、また、同月18日にも「ご指摘いただいている件を踏まえて、現在HPを変えています。」とのメールを受信しました。
  3. (3) その後、同年5月8日の時点においても、サイトの表示が変更されていなかったことから、同日、サイトの改訂が完了する時期を確認したところ、同月14日、「現在編集中で、編集終了時期は来年になる予定です。」との回答でした。このため、サイトを改訂するとの回答は単なる時間稼ぎに過ぎなかったと受け止めるしかありませんでした。
  4. (4) そこで、当機構は、サイトの表示のうち景表法に反する表示について速やかに改訂若しくは削除するよう求める正式の申入れ(2024年7月8日付で回答期限は2024年8月7日) を送付しました。これに対しても同年8月17日、メールとFAXで医療クリニックから「以前もお伝えした通り、現在編集中で編集終了時期は来年になる予定です。」との回答でした。
  5. (5) 以上のような経過から、当機構は消費者契約法第41条に基づく差止請求書を送付し、2024年8月29日に相手方へ到達したことを確認しました。到達後、一週間経過した後も是正措置が取られなかったことから、やむなく東京地方裁判所に提訴することとしました。