消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

イベント等

消費者機構日本 創立20周年記念シンポジウム
「消費者団体訴訟制度の一層の活用に向けて~長期的視点と中期的課題~」開催報告

 下記のとおり、消費者機構日本の創立20周年記念シンポジウムである「消費者団体訴訟制度の一層の活用に向けて~長期的視点と中期的課題~」を開催したことをご報告いたします。

1.日 時
2024年9月17日(火) 18時30分~20時45分
2.会 場
主婦会館プラザエフ 5階会議室
3.参加者
60名(会場参加者32名、オンライン参加者28名)
4.プログラム
18:30 開会・進行:二村睦子氏(消費者機構日本 理事長)
<基調報告>
 ○報告「これまでの歩みから ~成果と限界」
  佐々木幸孝氏(消費者機構日本 副理事長、弁護士)
 ○報告「団体訴訟の可能性 ~社会課題への拡張」
  鈴木敦士氏(消費者機構日本 理事、弁護士)
 ○報告「“在り方”の視点 ~ブレイクスルーの糸口」
  後藤巻則氏(消費者機構日本 会長、弁護士)
 ○報告「当面の問題 ~連携促進と資金支援」
  板谷伸彦氏(消費者機構日本 専務理事)
<シンポジウム 19:40~> 
 ○セッション1 他分野への拡張
 ○セッション2 消費者性の拡張
 ○セッション3 連携と基盤の拡張   (20:45 終了)
5.配布資料
消費者団体訴訟制度の一層の活用に向けて~長期的視点と中期的課題~

Ⅰ.第1部:基調報告

コーディネーター:二村睦子氏

 20年前の今日、9月17日に消費者機構日本は設立された。20周年記念パーティのような企画も考えたが、折しも消費者法制度のパラダイムシフトの議論が進行する中、消費者団体訴訟制度についても、この先のビジョンについて議論を起こしていく機会と考えて、敢えてこのような研究会的な企画とした。
 今回は6月総会後のシンポジウムの続編のような位置づけとなる。6月シンポは「COJの20年を振り返る」をテーマとして、過去のあゆみに焦点を当てたが、今回は視線を未来に移して、ビジョンを検討する。本日の準備のため何度か「起案委員会」を開催し、基調報告をまとめている。前半は起案委員4人で分担して報告する。休憩を挟んで後半はご参加の皆さんからのご発言も得ながら内容を深めていければと思う。

「これまでの歩みから ~成果と限界」:佐々木幸孝氏

1.消費者団体訴訟制度ができるまで

 消費者団体制度には差止請求と被害回復があります。被害回復制度の源泉を辿ると我が国におけるクラスアクションの議論とか鶴岡生協の灯油訴訟の影響も考えられますが、明らかに差止請求が土台をなしているものと考えられますので、先ずは差止請求制度ができた背景を考えてみたいと思います。
 消費者側が消費者団体訴訟制度の必要性を訴えるようになったのは、1999年頃の消費者契約法の立法運動の中で、仮に消費者が約款の無効等を主張することができるようになったとしても、個々の消費者の力は弱いので巨大な事業者を前にその主張を押し通すことができない、実効性あるものとするためには消費者に代わって不当な約款なり勧誘行為なりを差し止める消費者団体訴訟が必要である、という要求をしたことにあります。しかし、当時はそもそも団体訴訟という制度自体がなじみのないものであったので、消費者契約法の立法要請のために各政党に説明しても、わが国の国情に合わないと好意的な反応ではなかったという印象です。
 しかし、2002年の司法制度改革審議会の意見書が出るあたりから潮目が変わり始めます。意見書では、団体訴訟は法分野ごとに個別の実体法において検討されるべきとされました。法制審のような大きなところで議論するのではいつ実現するかわかりませんが、個別の実体法において検討するのであればハードルは下がります。それ以降、2003年の国生審報告「21世紀型の消費者政策の在り方について」などで、不当約款や不当勧誘に対する消費者団体による差止請求を早急に制度化すべきことが打ち出されていきます。こうした状況の中で、消費者団体制度ができてもそれを担う団体がなくては話にならないので、2004年に日本生協連、NACS、日本消費者協会の3団体を中心に、消費者機構日本が設立されました。
 このような状況のもと、2006年に消費者契約法を改正する形で、差止請求に関する消費者団体訴訟が導入されました。

2.制度の展開

 最初、消費者契約法の不当勧誘行為と不当条項だけが対象だった差止請求制度ですが、その後、特商法、景表法、食品表示法と適用対象法令を拡大していきます。また消費者契約法や特商法の改正により適用対象範囲が拡大していきました。担い手である適格消費者団体も続々と誕生し、現在では日本全国で適格消費者団体が事業者の不当な行為に目を光らせている状況にあります。
 そして適格消費者団体にとって、差止請求により被害の予防・防止は可能であっても、被害を被ってしまった消費者の救済ができないことが長年の課題であったわけですが、2013年には消費者裁判手続特例法の成立により被害回復も可能となり、消費者団体訴訟の新たな局面が開かれました。2022年には被害回復制度の活用を阻害していた要因に関して法改正もなされています。

3.消費者団体訴訟の成果

 差止請求によるこれまでの成果としては、不当勧誘行為については証拠固めが容易ではないこともあり活発とは言い難い状況ですが、不当条項に対する差止請求は実際に条項が改訂された案件数から十分な成果を上げていると考えられます。
 被害回復は提訴案件こそ全国でまだ8件で、訴訟外で解決したケースを含めても十分な活用がなされているとは言い難いですが、大きなポテンシャルと秘めているといえます。医学部不正入試事案の入学検定料6万円程度の被害額は従来の司法制度では回復が困難な「顧みられない権利」とされてきましたが、1,700名以上の消費者のこのような権利の被害回復を実現したという点では画期的な制度と言えます。
 消費者団体訴訟の成果は、このような法が直接の目的としたものだけに止まらないように思います。例えば適格消費者団体は、訴訟によらずとも事業者との交渉により不当条項の改訂を実現しているケースが圧倒的に多いのです。そこには訴訟を背景に適格消費者団体が不特定多数の消費者のために訴訟外で申し入れを行い、それに事業者も真摯に対応せざるを得ないという、それまでの消費者団体とは異なる事業者との関係性がみられるように思います。(被害回復請求においても同様のことが言えます)。
 さらに各地の適格消費者団体をみると、差止請求を行うことを目的として、弁護士、司法書士、行政の消費者相談を担当する相談員、消費者団体のメンバーなどからなる専門性の高い集団が形成されており、その地域における消費者問題に関心を持つ専門家が集まる場になっていることも成果であると考えられます。
 また、適格消費者団体や特定適格消費者団体が活動の成果を積み重ねることの中から、消費者契約法や消費者裁判特例法等、活動の根拠法令の不十分な部分をあぶり出し、改正への立法事実の提供に役立っていることも成果として評価できると思います。

4.今後の課題

 今後の課題については、少し遠いスパンで解決を求めていく課題、近い時期に解決を求めたい課題、従前からある課題に分けてこれから論じていきたいと思います。
 まず少し遠いスパンで考えるべき課題です。先に述べたとおり、消費者団体訴訟制度は、法分野ごとの団体訴訟導入の試金石としての役割を十分果たしたものと考えます。消費者法の分野以外にも集合的利益や公的利益を実現する観点から団体訴訟が導入されるべき分野があり、その実現が課題になっています。この点は鈴木弁護士からこの後に報告があります。
 次に近い時期に解決を求めたい課題としては、私たちが消費者団体訴訟を担う上で支障になっている実体法上の問題点の打破ということがあります。例えばエーチームアカデミー訴訟や現在係属中の山梨県を被告とする不当な違約金の差し止め請求事件、あるいは訴訟外で解決した大東建託の事件などで、消費者性の問題が中心的な争点になってきました。私たちからすると明らかに消費者なのですが、解釈上は微妙な問題として面倒な争点になっています。適格消費者団体としてはこのような実体法上の問題点を打破していくことが当面の重要な課題といえます。この点に関しては後藤会長からご報告いただきます。
 最後に、従前からの課題として、適格消費者団体の財政、情報、活動の広がりという面での脆弱性があります。適格消費者団体は、消費者裁判手続法による簡易確定手続きを行いうる場合を除けば、実施する業務から収益を得ることができません。差止請求は適格消費者団体にとって財政的負担にはなりますが、見返りを期待できない業務ですから、行えば行うだけ財政的負担が増えます。会費や行政からの委託事業から収益を得ている場合であっても、多くは会員のボランティア活動に依存している状況にあります。団体訴訟の生まれたヨーロッパでは、収益源を持つ消費者団体や行政から財政的援助を受けている消費者団体が団体訴訟を担っていますが、わが国の適格消費者団体の財政は極めて脆弱であり、今後、現在のような活動を維持継続していけるか誠に心もとないといわざるを得ません。
 また、消費者被害の情報収集の面でも、わが国では消費者相談を行政の消費生活センターが担ってきたこと、どこの適格消費者団体も個別の消費者被害に対応できるほど人的資源がないことから、寄せられる被害情報は多くない状況が続いているように思います。また適格消費者団体は差し止め請求に特化しすぎ活動に広がりがないという問題もあるように思います。このようなことは従前から課題とされてきているところですが、これをどう打ち破っていくかを板谷専務理事から報告してもらいます。

報告「団体訴訟の可能性 ~社会課題への拡張」:鈴木敦士氏

1.日本の法制度の中の消費者団体訴訟制度

 2001年6月の司法制度改革審議会意見書では、少額多数被害についての被害救済の実効化の方策として、団体訴権の導入については法分野ごとに個別の実体法において検討するとされました。しかしながら、消費者分野以外では立法化に向けた政府レベルでの検討は乏しい状況にあります。

2.海外での事例

 米国のクラスアクションでは、クラスの代表者は同種の被害を受けたクラスメンバーです。直接被害を受けておらず、また当該訴訟以前から継続的に活動する団体が訴訟を提起する団体訴訟とは異なったところがあります。もっとも、少額多数被害の救済に広く活用されている制度です。連邦レベルでは民事訴訟規則に定められていることからわかるように消費者分野に限った制度ではありません。カルテル被害、証券被害などだけでなく、差別に関する問題、労働問題、環境問題などにも広く活用されています。そして、差止請求、被害回復ともに行うことができます。
 イギリスでは、民事訴訟の一般的なルールとしてオプトイン型の集合訴訟制度があり、差止請求のほか被害回復も行うことができます。競争法に関しては一定の団体が訴訟を起こすことができ団体訴訟も導入されています。
 ドイツでは、伝統的に集合訴訟に否定的と言われていますが、消費者法分野だけでなく、競争法分野や環境法分野においても一定の団体に差止請求が認められています。
 フランスでも、消費者分野だけでなく、環境問題、差別問題、個人情報保護に関しても一定の団体が訴訟を起こすことができ、差止請求のほか、被害回復も行うことができます。
 このように、諸外国では、消費者法分野以外にも集合訴訟制度があり、ヨーロッパでは団体訴訟が活用されています。

3.役割拡張の可能性

 ところで、いわゆる少額多数被害といっても多様なものがあります。消費者契約法9条1号違反の条項によりキャンセル料を徴収された被害のように、契約の当事者であることから被害者が特定され個別の請求権が発生し、それと同種の請求権が大量に発生するものがあります。他方、カルテルにより高い金額を支払わされた被害、虚偽の広告により不必要な契約を締結した被害のように、被害者が特定されていないものの被害者に個別の請求権が発生し得るものもあります。その他、自然環境の破壊のように、被害者が特定されておらず、被害者に個別の請求権が発生するかも明らかでないものがあります。
 被害者が特定されていない被害や被害者に個別の請求権が発生するか明らかでないような被害については、個別に訴訟提起すること自体が不可能である場合があり、そのような場合にこそ、団体訴訟の枠組みが活用されるべきです。
 2024年4月に消費者庁新未来創造戦略本部新未来ビジョンフォーラム事務局が作成した「消費生活の未来に関する調査報告書」によれば、社会経済の変化を踏まえると、今後、「持続可能性・倫理性に価値を置く消費」(サーキュラーエコノミー、ブロックチェーン技術によるトレーサビリティ向上など)、「健康に価値を置く消費」(ウェアラブルデバイス、感情認識センサーなど)、「効率性・利便性に価値を置く消費」(レコメンド機能の高度化、生体認証を用いた決済方法の普及、ロボットによる法執行)、「自律性に価値を置く消費」(カスタマイゼーション、個人のモノづくり支援、プライバシーデーターマネジメントなど)の4つの方向性があるとしています。このような方向性は、以下で述べる環境問題、ビジネスと人権、個人情報などとつながりがあるものです。
 ところで、人的、資金的に困難が多い適格消費者団体が新たな役割を担うことは現実的かという懸念があります。これについては、新しい分野には前人未到の荒野がひろがっているのではなく、新しい仲間がいるということに着目すべきです。環境分野や人権分野には活発な活動をしている資金力・影響力のある団体もあります。諸外国では、消費者法分野以外でも団体訴訟の制度が設けられていますが、日本では他の分野で団体訴訟制度がありません。そのため、消費者分野と関連付けることで団体訴訟を行うニーズが他の分野にあるのであれば、それに取り組むことで適格消費者団体の体制を強化するということが考えられます。

4.新たな分野

 諸外国でも認められているように、消費者法分野以外でも団体訴訟の制度が設けられるべきですが、そのような整備がされるまでは、消費生活の変化を踏まえて、消費者法の枠組みを使って、環境問題、差別問題、個人情報保護などの少額多数被害の救済に向けて活動を拡大させていくべきだと思います。そうすることが、他の分野において、団体訴訟制度の有用性と濫訴の恐れといった弊害は杞憂であることが理解され、制度創設の後押しになると考えられます。

(1)環境分野

 先の調査報告書を踏まえると、持続可能性があること、たとえば、資源の効率的な利用、廃棄物の削減・再利用、環境負荷の少ない植物性食品などに価値が生じることになります。そうすると、その説明が事実と異なるのであれば、そのような商品サービスは購入しないということが増えてくるということでしょう。
 差し当たり、景表法上の差止めや消費者契約法の不実告知、不利益事実の不告知などの勧誘規制に係る差し止めが、持続可能性を訴求する商品、サービスについての広告の適正化に活用できないか検討する必要があります。
 また、被害回復訴訟では不法行為請求が可能であり、説明が事実と異なる場合に取り消しを認めるほどのものでなくても、損害賠償請求をすることで広告の適正化に活用していくことも考えられます。

(2)ビジネスと人権

 ビジネスと人権の観点からは、まず、国家が人権を侵害せず、人権を侵害している状況から人々を保護し、人権侵害状態がある場合に人権を充足する義務があることを前提としています。国家の保護義務の反映として、企業にも法令遵守と人権尊重が要求されると考えられています。そして、企業は人権を尊重する責任を果たすという企業方針を示し、人権への影響を特定して予防軽減し対処方法を説明するための人権デューディリジェンスを導入し、救済を可能とする手続を備える必要があります。日本でも行動計画が定められています。
 先の調査報告書を踏まえると、「倫理性に価値を置く消費」が広まるということですから、ある商品サービスのサプライチェーンの中で人権に配慮していることが価値を持つことになります。環境分野と同様に、景表法上の差止めや消費者契約法の不実告知、不利益事実の不告知などの勧誘規制に係る差止め、被害回復訴訟による損害賠償請求が、倫理性を訴求する商品、サービスについての広告の適正化に活用できないか検討する必要があります。
 また、ビジネスと人権の観点からは、商品のサプライチェーンでの人権侵害ばかりではなく、商品・サービスが消費される場面でも人権への影響を分析する必要があると考えられます。先の報告書で示されたウェアラブルデバイスや感情認識センサーの普及、カスタマイゼーションの進展の普及に当たっては、そのようなデーター集積による差別が生じていないか監視する必要があります。
 被害回復訴訟では不法行為請求が可能であり、損害賠償請求をすることで是正を求めていくことも考えられます。

(3)個人情報

 先の報告書では「自律性に価値を置く消費」として、プライバシーデーターマネジメント自体が方向性の中に示されているように、ウェアラブルデバイスや感情認識センサーの普及、カスタマイゼーションの進展の普及に当たっては、個人情報の保護がより一層重要になってくると考えられます。
 個人情報の利用の同意などに関連して、契約条項が問題になることもありうるので、消費者契約法の差止請求の活用も考えられます。

報告「“在り方”の視点 ~ブレイクスルーの糸口」:後藤巻則氏

1.問題の所在

 私に与えられたテーマは、消費者団体訴訟から一歩離れて、その前提となる実体法上の消費者概念や事業者概念の「在り方」を検討することです。
 消費者契約法において、消費者とは、「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」をいい(2条1項)、事業者とは、「法人その他の団体」および「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」をいうとされています(2条2項)。
 消費者裁判手続特例法においても、表現は若干異なりますが、ほぼ消費者契約法と同じ消費者、事業者の定義が置かれています。
 ところが、近時、消費者、事業者をめぐって、それぞれの概念を見直す議論が進展してきています。
 それらにつき、第1に消費者概念の外延の問題、第2に「脆弱な消費者」にどう対応するかの問題、第3に悪質な事業者にどう対応するかの問題を検討し、最後に第4として、以上の問題点が消費者団体訴訟にどうかかわるかを指摘します。

2.消費者概念の外延

 第1は消費者概念の外延をどう捉えるかという問題です。これは「消費者的事業者」あるいは「事業者的消費者」に対する規制をどう考えるかという問題です。
 消費者的事業者としては、零細事業者向けの電話機などのリース契約が締結された場合や、個人が開業のために一定の準備行為をした場合、マルチ商法に加入した者が再販売等をする意思をもって販売組織に加入した場合などについて、判例上、「消費者」に該当するかどうか問題とされてきましたが、より広く、大企業と中小企業の契約における中小企業などもこの範疇で考える可能性があります。これらの契約は事業者間契約であるとしても、契約当事者間に格差がみられることは明らかであり、それへの対応が問題となります。
 次に、事業者的消費者とは、インターネット・オークションやフリーマーケット(フリマ)アプリを通じて個人間取引を行う場合において、商品やサービスを提供する側の消費者などをいいます。この契約は消費者間契約ですが、商品やサービスを提供する側の消費者は取引経験を重ね、情報を得る可能性があるため、この場合の契約当事者間にも格差が生じます。
 事業者間契約や消費者間契約は消費者契約ではないため、消費者契約法の適用はないと捉えて、民法の規律で対応するのか、それとも非対等当事者間の格差是正という考え方を消費者契約法の中に浸透させるべきかが問題となります。この問題は今後の重要な検討課題となっています。

3.脆弱な消費者への対応 

 第2は、消費者概念につき、脆弱な消費者という考え方にどう対応するかという問題です。
 消費者契約法は事業性に着目し、事業者でない者を消費者と捉えていますが、今日、いわゆる「生活世界」での人々の活動全体が消費者法の対象になっているとして、生活者としての消費者という観点を強調する考え方も有力です。
 消費者契約法1条の目的規定と、2条の消費者・事業者の定義規定は連動しており、事業性に着目し、事業者は事業活動によって情報や交渉力を取得する結果、消費者との間で構造的な格差が生ずるため、その格差の是正が必要であるとするのが消費者契約法の基本的な制度設計です。これに対して、生活者としての消費者という観点は、自然人としての消費者に固有の特性としての脆弱性に対処しうる方向を示すものとして消費者の脆弱性にどう対応するかという今日の重要課題を考えるうえで重要な示唆を与えるものです。
 もっとも、消費者契約法の1条と2条が連動した規定であることからしますと、現在の消費者契約法1条のもとで脆弱性を想定した消費者概念を考えることができるかどうかも問題であり、目的規定も含めた消費者契約法の制度設計の再考を促していると言えます。

4.悪質な事業者への対応

 第3は、事業者概念につき、悪質な事業者にどう対応するかという問題です。
 先ほど述べました消費者の脆弱性は消費者の多様性という観点に関係しますが、これと同様に事業者の多様性にも注目すべきことが指摘されています。すなわち、事業者には意図的・積極的に消費者被害を発生させるような悪質な事業者もいれば、そうではない優良な事業者もいるのであり、事業者の悪質性の度合いを踏まえずに一律な規制にしてしまうと、優良な事業者を萎縮させる反面で悪質な事業者には効果がなく、制度として適切に機能しないこと、また、悪質な事業者は民事ルールや事前規制といった制度では反応しないので、行政規制さらには刑事規制も視野に入れた対応が必要であることを指摘しています。
 確かに事業者の悪質性の度合いを踏まえた規律という視点は重要ですが、消費者契約法など消費者にかかわる法令の中に事業者の悪質性をどう書き込むかという問題は残るように思います。
 例えば、消費者裁判手続特例法3条1項5号イが、事業者(当該被用者の選任及びその事業の監督について故意又は重大な過失により相当の注意を怠った者に限る。…)」と規定していることは、事業者の悪質性を問題としていると考えられますので参考になります。しかし、事業者の故意・重過失という主観的事情を要件にすることにはその立証の負担という問題もあり、これを悪質性の中心的な判断要素とすることにはなお検討の余地があるように思います。また、悪質かどうか、どの程度悪質なのかの判断は容易でないこともあります。
 そのため、将来的な方向としては、EUの不公正取引方法指令のように、より客観的な事業者の「行為」に着目することも考えられるのではないかと思います。同指令は、抽象的なものから具体的なものへの3段階の規制となっており、とりわけいかなる場合にも検討の余地なく当然に不公正となる取引方法のリスト(ブラックリスト)も掲げられており、不公正かどうかの予見可能性を高める工夫をしています。
 また、同指令は、指令のエンフォースメント(違反があった場合の法的処置)について、当初は加盟各国の国内法に委ねていましたが、2019年の現代化指令によって、不公正取引方法指令をはじめとする一連の重要な指令に加盟国におけるエンフォースメントの内容に関するより詳細な規定が導入されました。これを国内法化することにより、被害を受けた消費者は損害賠償、代金減額、契約の解消等の救済を受けることが可能となっています。
 このように外国法を参考にして不公正な取引とはどのようなものかをより客観的に示していくことが重要です。
 こうした外国法の検討も重要ですが、わが国の消費者団体訴訟との関係では、将来にわたって消費者団体訴訟の成果や問題点を分析し、事業者のどのような行為を規制すべきかの基準を明らかにしていくことが重要です。
 この点については、前回の6月シンポジウムで、COJの取組みについて磯辺さんが指摘していますが、差止請求訴訟としては、入学時諸費用の不返還条項をめぐって最高裁まで争ったエーチームアカデミーの裁判があり、「消費者契約該当性」や「入学し得る地位の対価性」等について貴重な判断がなされています。また、被害回復訴訟では、大学医学部の不正入試に対する訴訟や、最高裁まで争ったワンメッセージ裁判などがあります。さらに、当該業界に影響を与えた主な取組みとして、有料老人ホームの入居一時金に関わる差止請求や建築工事請負約款の不当条項の差止請求、スポーツクラブ会員契約における不当条項の差止請求、銀行カードローンの相続開始時の期限の喪失条項の差止請求などがあります。
 これらの取組みを重ねることによって、市場において事業者がどう行動すべきかの基準が明らかになり、事業者の行為がこの基準に反しているかどうかという点が、規制を及ぼすかどうかの判断の中心になっていけば、悪質な事業者という観点は重要ではないということになるかもしれません。
 また、EUの不公正取引方法指令が、契約締結後の態様も対象にしているものの契約締結の態様に重点を置き、わが国の消費者団体訴訟では契約内容の妥当性を対象とするものが多いという点からしますと、わが国の消費者団体訴訟でも、契約の締結態様に対する規制をより重視する方向も考えられると思います。

5.消費者団体訴訟へのかかわり

 以上、消費者概念、事業者概念をめぐって今日問題となっている重要課題を指摘しました。これらは適格消費者団体ないし特定適格消費者団体が、差止請求訴訟や集団的な損害賠償請求訴訟を起こす場合に、法の適用があるか、どう適用されるかという基本的な問題ですが、一方で消費者法の目的や規制の根拠に係わり、消費者法の制度設計の見直しにもつながる根本的な問題でもあります。これらを検討し、差止請求訴訟や集団的な損害賠償請求訴訟についての政策提言を行っていくことも消費者団体に課せられた重要な役割であり、引き続き検討を進めたいと考えています。

報告「当面の問題 ~連携促進と資金支援」:板谷伸彦氏

 消費者団体訴訟制度の一層の活用に向けて、当面の問題としては「連携促進」と「資金支援」だと思います。

1.連携促進

 全体として言えば、これまでは「適格消費者団体が、消費者団体訴訟制度を活用する」として進めてきましたが、その主語を微妙に置き換えて「関係機関・団体・市民社会が、適格消費者団体を通じて、消費者団体訴訟制度を活用する」といったように転換していけないかということです。

(1)消費生活センター

 消費生活センターに寄せられる相談のうち被害が不特定多数に及ぶと見られる事案については、相談員さんから相談者の方に適格消費者団体への情報提供を促していただいていますが、その後、ご本人から実際に情報提供が行われることは多くはないと聞きます。この際、消費生活センターから直接、団体に情報提供できる環境を整え、「消費生活センターが消費者団体訴訟制度を活用する」ようにすれば大きく変わってくるのではないかと考えています。
 この点、大前提としては消費生活センターがギリギリの体制で相談業務を回しているという現状を改善する必要がありますが、連携すること自体に大きな制度的障害がある訳では無いように思います。消費者安全法に守秘義務が定められているのはもちろんですが、同じく守秘義務を負う適格消費者団体との情報共有であれば、「この範囲の情報共有はむしろ積極的に行うべき」といった明確なメッセージが発信されれば連携が進むのではないでしょうか。

(2)専門NPO

 社会課題に取り組むNPOとの連携も可能性があります。昨年、消費者庁が「孤独・孤立・貧困問題と消費者被害」シンポジウムを消費者スマイル基金に委託して開催されました。通常、こうした問題は適格消費者団体の視野には入り難いのですが、例えば「貧困ビジネス」の手口を詳しく見てみると、不当表示や不当勧誘・不当条項として捕らえることができそうな部分を見つけることができます。NPOの側にも弁護士さんが関わっている場合がありますが、多くの場合、目の前にいる人の個別救済に忙しすぎて消費者団体訴訟制度の活用には思い至らず、私たち適格消費者団体の側にはその問題の詳細について分析する体制が足りないということで、中々具体的に動けていない状況です。

(3)業界団体・監督官庁

 業界団体が存在する場合、少なくとも法令で問題となるような行為をその業界から一掃していくために消費者団体訴訟制度を一緒に活用していけるような連携ができると良いと思います。過去、いくつかのスポーツクラブの契約条項を差し止めた際に、業界団体に対して適格消費者団体連名で要請書を提出し、業界全体の改善を促した事例があります。
 監督官庁との連携も同様です。過去に銀行カードローンの期限の利益喪失条項について、全国の適格消費者団体で足並みを揃えて申入れを行った事例があります。その後の国会審議の中で「こういう場合、一件一件適格消費者団体に申入れをさせなければ是正できないものなのか?」という質問が行われ、金融庁から業界に対する改善要請に至りました。適格消費者団体が問題を指摘し、すばやくはありませんでしたが監督官庁が動いた事例と言えます。

(4)行政

 行政との連携では2009年消費者庁設置法以来の制度整備課題が未だ残っています。このことについては昨年の消費者委員会ルール形成ワーキングで改めて報告がまとめられています。破綻必至商法のような悪質事業者に対しては、特定適格消費者団体で対処し得ないばかりでなく、そもそも現行法の枠組みで対応することに限界があるということで、こうした行政手法を整備した上で、特定適格消費者団体が対処し得ない事件について連携していくことができれば良いと思います。

2.資金支援

 以上のように、消費者団体訴訟制度の一層の活用に向けて「連携」の視点から今後の展開を考えることができますが、その前提として「資金」の裏付けが欠かせないと思います。
 消費者機構日本の事業部門別収支の資料をご覧ください。上段・収益に黒文字で記載しているのは消費者スマイル基金からの助成金で、被害回復のところに赤文字で記したのが、医大訴訟での被害回復手続きによって授権者から頂戴した費用・報酬になります。
 右側の被害回復の方は、医大訴訟のように十分に支払い能力のある相手と一定間隔で裁判を構えることができれば資金的に回転していく可能性があるように見えますが、実際には支払い能力がある事業者は自ら対処されるので裁判に至らず、逆に悪質な事業者は支払い能力が無いのでこの制度の対象とすることが困難です。この収益はレアケースと言えます。
 左側の差止請求の方はそもそも制度の建付けとして収入の途が無いので、やればやるだけ赤字となり、その赤字を会費で埋めているという構造です。この構造を変えないと、この先の制度の発展どころか持続可能性が危ういと考えています。
 消費者機構日本の場合は、企業の本社が数多く集まる東京にあるので、他の地方に比べると企業からの賛助会費や寄附などをある程度得やすい環境にあるのですが、他の適格消費者団体はそうはいきません。会費と寄附金頼みでなく、本来事業での収入や公的支援など収入源を制度に埋め込むことが必要です。
 本丸としては本来事業に収益を組み込む。つまり、差止請求を行なえば行うほど収益を得られるようにすることですが、受益者が不特定多数のため良い知恵が思い当たりませんでした。ここではそれ以外の仕組みをいくつか挙げています。

(1)公的基金の創設

 一つは「地球環境基金」の例です。国と民間の双方から資金拠出されていて、その運用益で民間団体の活動を助成したり、人材育成などの振興事業を進めたりしています。毎年200件前後に6億円程度の助成が行われています。
 もう一つの事例は2015年にできた「こどもの未来応援基金」です。こちらの方は国が資金を積むのではなく、国が民間に寄付を呼びかけるパターンです。消費者団体支援に置き換えると、国民生活センターと消費者庁が基金への協力を呼びかけ、民間からの寄附を募るイメージになると思います。

(2)課徴金の活用

 2014年の景表法改正で課徴金制度が導入される際に、消費者への自主的返金の補完策として「寄付」の控除が検討されましたが、法案審議の最終晩でなぜか消えてしまいました。この寄附控除の仕組み自体、再検討されるべきと思いますが、さらに、その後導入された「確約制度」の運用の中で再検討することもできると思います。
 確約計画の認定は、事業者と消費者庁のやりとりで進められますが、確約計画による「事業者の自主的取組」の内容の一つとして「寄付」という方策を位置づけることは、認定主体である消費者庁の考え方によって可能なのではないかと思います。

(3)業務基盤の整備

 消費者裁判手続特例法は少額・多数被害の救済を目指して制度化されました。しかし、手続追行の事務的負荷が大きく、「少額すぎる」事件「多数すぎる」事件については依然として対応が困難な面があります。立法趣旨を実現するため、この問題をクリアする方策を考える必要があります。
 例えば、対象消費者が万単位になるような大規模な簡易確定手続きにも耐えられる業務システムなど、業務基盤を公的に整備していただければありがたいです。簡易確定手続は民事訴訟手続きではありますが、すでに共通義務は確定している段階であり、一方当事者の利益をはかるものでは必ずしもないことからすると、公的にその基盤を整えることに何ら障害は無いのではないかと思います。

Ⅱ.第2部:シンポジウム

コーディネーター:二村睦子氏

 最初の佐々木報告で全体像を整理した後、射程の異なる3つの拡張について報告された。後半では3つのセッションで進行したい。一つは鈴木報告にあった「他分野への拡張」について。二つ目は後藤報告にあった「消費者性の拡張」。三つ目は板谷専務から報告のあった「連携と基盤の拡張」についてである。
 先ず「他分野への拡張」について。全国消団連はとても幅広いテーマを取扱ってきたが、この問題提起に関連して発言いただきたい。

小浦道子氏(東京都消費者団体連絡センター)

 団体訴権は海外では多分野で活用されているが、日本では消費者被害に限られているため分野の拡張が必要であるとの報告であった。また、今後、団体訴権の活躍が期待される分野として環境、ビジネスと人権、個人情報の分野を挙げられた。日本においても、そうした分野に団体訴訟が導入されることを期待したい。
 一般的な消費者団体の活動幅は広く、環境等の消費生活の問題に関しては常に学び、必要に応じて意見書を発出するなどしている。環境分野、ビジネスと人権、個人情報につき団体訴権が導入されたときには、一般消費者団体の新たな役割として、適格消費者団体と連携・協力して訴権を活用する活動ができるのではないか。
 また、消費生活の未来、予想される4つの方向性の話しがあった。最初に挙げられた「持続可能性、倫理性に価値を置く消費」については、既にエシカル消費が推進されている。「健康に価値を置く消費 」については、昆虫食が現実的になってきたことを思うと、消費者の安全・安心、商品選びの情報提供として表示の重要性が増していると思っている。

古谷由紀子氏(CSOネットワーク)

 「ビジネスと人権に関する指導原則」は3つの柱からなる。「国家の義務」「企業の役割」「実効的な救済」。そもそも指導原則というのは国家の人権侵害ではなく、ビジネス上の人権侵害を放置できないことから出発しており、中心は企業による人権の尊重だ。消費者の権利は人権であると考えると、この指導原則が活用できる。
 指導原則に関する国の行動計画として消費者庁はエシカル消費、消費者志向経営の推進、消費者教育を掲げている。消費者志向経営には消費者問題も入り、消費者問題は人権尊重の取り組みであるとすれば、指導原則の活用は問題解決の強力なアプローチとなりえる。というのも、指導原則によれば、企業の人権尊重は方針を立てるだけでは駄目で、どんな人権リスクがあるかを設定して、是正して、救済にまで繋げる、ある意味、消費者志向経営より進んでいる面があるからだ。消費者の権利を人権ととらえて、消費者団体の側のアプローチも見直すことも考えられるのではないか。その文脈で消費者団体訴訟制度を捉えるとより効果的ではないだろうか。
 人権と言えば様々な権利がある。消費者の権利だけでなく、個人情報も人権、環境も人権、労働者の権利もそうである。様々な権利は消費生活に密接に関係している。エシカル消費をしましょうというだけではなく、個人の権利が侵害されているのであれば、消費者団体、適格消費団体とともに問題解決に動きましょうという活動に拡張できるのではないか。消費者問題をビジネスと人権に引き寄せて捉えることでは様々な問題解決の可能性を見出すことができる。

長田三紀氏(情報通信消費者ネットワーク)

 個人情報保護法の3年見直しの中で団体訴訟の導入が検討されているが、経団連、IT連、新経済連が反対されている。経団連は、そもそもの団体訴権導入当初から「濫訴」を懸念されていて、残念ながら現在もそうした見方は変わっていない。業界団体との連携の可能性についても報告があったが、消費者団体の活動が健全な市場形成に役立つということを経済団体側に理解していただく必要がある。
 経団連は、仮に個人情報保護法に団体訴権が入ったら真面目に事業をやっている事業者に委縮効果が生じると言う。また、適格消費者団体の性質によっては企業への影響は計り知れないインパクトがあると言う。そうした主張のエビデンスは何ですかと質問してみた。濫訴の恐れについての回答としては、他分野における団体訴訟では濫訴の事実は確認できていないが、一般論として対応に割かれる企業のリソースや不安が増すことは容易に想像しうる・・・。また、適格消費者団体の性質については、現在の適格消費者団体(26団体)に言及するものではないが、今後のどのような団体が適格消費者団体に認定されるのか予断できず・・・、ということであった。
 何かエビデンスがあって反対している訳ではないことははっきりした。適格消費者団体の活動を伝え、こういう成果を上げたということを共有してもらうことの必要性を強く実感している。

下奥重望氏(消費者機構日本個人正会員)

 私は視覚障碍者で就労継続支援B型に通っている。人権問題としての取り組みは必要だ。2016年に津久井やまゆり園の事件があったが、高齢者施設等でも虐待などの問題はある。東京都に相談しても苦情受付窓口が施設内にあるのだからそこに相談すればよいではないかとなりがち。施設の苦情受付窓口も施設の職員で、第三者といっても理事長だったりするので、なかなか取り合ってもらうのは難しい。東京都に運営適正化委員会があり、そこは仲裁を行っているが効力は弱い。消費者団体に人権問題として取り扱ってもらえれば気軽に相談できる。

鈴木弁護士

 今回の報告を準備するにあたり、適格消費者団体以外との連携を広げることによって団体を支える人材・資金が得られないかと考えた。適格消費者団体の中で約款の規定ばかり議論していても、一般の消費者団体への広がりが得られない。食や環境分野に熱心に取り組んでいる消費者団体もあるので、そこと連携することもすそ野の広げ方の一つと思った。
 消費者の権利を実現するためにビジネスと人権の枠組みを使うのは重要だ。ビジネスと人権は元々国連からででてきた話だが国連のコアな人権条約のなかに消費者の権利は書かれていない。一方でEUの基本権憲章のなかには消費者の利益を保護するということは基本的権利として書かれていることもありEUでは消費者保護という観点から近時、消費者法の発展が著しい。消費者の権利を人権というかどうかは人権の専門家からは議論があるところと思うが、既存の自由権とか社会権とかに還元できる面はあると思う。消費者の権利利益を確保していく上で、人権は視点として必要だと思うが日本ではまだ弱い。日弁連は人権団体を標榜しているので、そのあたりをもう少し関心をもってやったほうがよいと個人的には思っている。
 諸外国では個人情報保護もそうだが団体訴訟的なものが導入されている分野は多い。大企業が恐れるほどCOJは力がない。新たな分野に取り組むにあたっては、倫理的にも酷い、一般社会から支持を受ける事案を見定めて実績を積み上げる必要があるだろう。

コーディネーター:二村睦子氏

 ここから次の「消費者性の拡張」に関するテーマに移る。これは実際に消費者団体訴訟制度を活用しようとした時にハードルになりがちな実体法上の問題。COJその他の裁判の経験からコメントいただきたい。

谷合周三氏(消費者機構日本理事、弁護士)

 2018年から2019年にかけて取り扱った大東建託の事案を紹介する。大東建託はアパート建設の発注を受けて完成した建物について、一括借り上げする形で賃貸経営を請負っている。
 差止請求として問題にしたのは二つ。一つ目は建築請負契約を締結する前に申込金を受け取り、請負契約に至らない場合であっても返還しないとする条項。もう一つは請負契約締結後に契約解除になった場合に、解除の時期を問わず契約時金を放棄させる条項。これら差止請求は相手方に受け入れられた。
 続いて、施行されたばかりの消費者裁判手続特例法を使って対象者への返金を申し入れたところ、当初は「消費者」に該当しないとして拒否された。そのためCOJで共通義務確認訴訟の準備を開始し、広く情報提供を求め、記者会見も行ったところ、申込金は返金しますと回答が変わり、さらに、特例法施行前であっても返金すべきと申し入れたところ返金するとの回答であった。このため「消費者」にあたるかどうかの議論に入る前に解決することができた。
 消費者に該当するかどうかの文言解釈では、アパート経営の賃貸事業の請負契約になるので、事業者に該当してしまうリスクがあった。訴訟準備の中では、消費者契約法第1条(趣旨)からの解釈でケースによっては消費者契約に該当するのではないかという議論はしていたが、個別のケースではなく法律の枠組みの中で議論しなければならないので、共通義務確認訴訟で争うのはリスクが高いと思っていた。被害回復訴訟の1号になりそうだっただけに敗訴は避けたかったので、提訴を回避できて正直ほっとした。
 今日の話を聞く中で、不当勧誘の視点で考える発想もあり得たのではないかと思った。つまり、消費者を賃貸住宅経営に誘う段階で不当勧誘があったとすれば、消費者契約の適用があると言えたのではないか。

中野和子氏(消費者機構日本理事、弁護士)

 不当勧誘は難しいというのが実感で、これまでの経験からも個人的には不当約款のほうを追求したいと考えている。やり方としては消費者・事業者の二分法はとらない、あるいはプラスして拡充するという形で零細な事業者も保護する方向を追及できたらと思う。そうすれば、消費者か事業者かというところで悩まなくてすむ。
 世界には多種多様な消費者法があり、例えばブラジルの消費者法は「消費する人」を消費者と決めていたりする。結局、消費者の定義は決め方の問題なのかなと感じている。
 私の考えとなるが、フランチャイズ問題は特商法の業務提供誘因販売取引で救済された例もある。零細事業者といっても多種多様だが、無料広告被害に遭ってしまうケースもあり、そういう人たちが救済されるためには一定規模以下の事業者を消費者として扱うと定めるとか、フランチャイズであれば開業準備行為を消費者契約に含めるとか、そのような形で解決できるのではないかと考えている。
 消費者の定義を零細・小規模事業者に拡大するというのはカライスコス先生も話されている。オーストラリアの例もあり、また、韓国では約款法は事業者にも適用されている。日本では民法が全く使えない状況なので、そんな形で対処できないかと思っているところである。
 事案にて事業者、事業者的消費者、消費者的事業者と考えるよりは、はっきりと法律に定義すればコストもかからないし、よい方法だ。大規模事業者であれば法務部があり、資金が豊富なので弁護士に相談するといったことがすぐにできるが、零細事業者そのようなことができない脆弱性を持っているので大規模事業者と同じに扱うのは不当だというように。
 フランチャイズ契約もそうだが、今まで労働者であった人、ほぼ消費者であった人が事業をやろうとして契約すると、何もしていないので事業者になってしまう。フランチャイズの場合、契約の相手方は多くの知識をもっているのに、これからフランチャイズに参入しようとしている主婦や労働者は何らの知識もない。フランチャイズの提供側事業者から、言うとおりにやってくればばいいですと言われ契約してしまう実態もあるので、その方たちの保護を早めに手当てしないと悲惨な結果になると思う。事業者と言っても一定の人には保護は必要。そのような方々が消費者契約法の範疇に入ってくれば、それに合った訴訟も考慮する必要もあり、それを担える体制を整えないといけない。

後藤先生

 消費者契約法は素晴らしい法律だが宿命として適用範囲を明確化する必要があり、消費者・事業者の定義を置いて消費者契約に本法が適用されるとしている。消費者契約法第1条(目的)と第2条(定義)が連動する規定となっており、1条で情報・交渉力格差を謳っていることから2条を解釈すると、例えば大企業と零細企業のように情報・交渉力格差があれば、零細事業者は消費者ではないが消費者契約法上、消費者と同じような扱いをするという可能性がある。
 判例もそういう方向性を認めているものがある。大学のラグビー部の宿泊契約がインフルエンザでキャンセルされ、大学のラグビー部は権利能力がない社団のため消費者契約法の消費者とは言えないのだが、大学生が十数人集まったものでありホテル側とは情報・交渉力の格差があるという観点からは団体であっても消費者として扱う。そういう判例も参考にしつつ、情報・交渉力の格差を消費者契約法に浸透させていくことが一つの方向性として考えられるのではないかと思う。
 対立的な考え方として、これは消費者契約法の問題ではないとなると民法の問題になるが、大企業と小さな企業の関係が民法の問題なのか消費者契約法の問題なのかということについて、民法の問題とするほうが消費者契約法の条文からは適合するが、私は民法に期待できるかというと現在の民法ではそれは難しいと思っている。それは債権法改正のときの法制審議会において議論がされたところで、例えば当事者の格差を考慮する規定もアイデアとして議論されたが、むしろ契約自由ということで当事者の格差を考慮する規定が見送られた。情報・交渉力の格差も含めて民法上の問題として扱うことをどこまで期待できるのかはやや危惧される状態である。
 こうした意味からいうと消費者契約法の適用を拡張する方向で、同法1条や2条の改正の可能性がでてくるが、消費者法なのか民法なのか、大きな問題なので、それらを含めて考えていく必要があると思う。
 従来の判例をみると消費者性のハードルというのは開業準備行為についても準備行為がどの程度具体化しているのかということに応じて、準備行為の具体化があまりされてないときは、消費者性を認める、そういった判例もあるが、結論的にいうと、消費者性のハードルは判例ではかなり高いと思う。そういったところを消費者契約法でどのように対応するのかが問題になる。問題は複雑になるが、脆弱な消費者ということも問題になり、情報・交渉力の格差、脆弱な消費者、消費者の脆弱性といった観点がどのように関係するのか、ということも考える必要があって、かなり難しい問題だという印象をもっている。

コーディネーター:二村睦子氏

 最後のセッションとして「連携」の問題に移る。基調報告の中では最も基本的な連携先として消費生活センターが挙げられていた。この点について相談員さんの視点から補強いただけると良い。

佐竹愛子氏(消費者機構日本個人正会員、川崎市消費者行政センター勤務)

 消費者相談では、消費者契約法の8条、9条、10条の不当条項に該当すると思われる相談を多々受ける。そのようなときは事業者に対して消費者契約法に基づいて解決を図ろうと斡旋交渉をするが、多くの事業者には消費者契約法への理解がなく、斡旋交渉で解決が実現するケースはほとんどない。その際、相談者に適格消費者団体のことを説明して、個別の消費者トラブルは解決できないが被害が拡大しないように情報提供してほしいと案内するが、相談者は自分のトラブルの解決を求めているので、実際には中々情報提供にはつながっていないように思う。
 相談員としても忸怩たる思いがあり、できれば直接、適格消費者団体に情報提供したいと思うが、現在消費者団体訴訟制度において、事業者の不当な行為を適格消費者団体に申し出ることができる主体は、消費者以外に明確な定めはなく、消費生活センターから申し出ができるという法的な根拠がないため、センターから直接情報艇提供することは困難となっている。
 相談員が相談業務を行っている根拠法は、消費者基本法や消費者安全法、自治体の条例等であるが、これらすべては消費者の苦情を受けて斡旋交渉する、被害を救済するとの規定に留まっている。「関係機関に情報提供できる」とする規定が残念ながらない。今後、消費生活センターから、不当条項に該当すると思われる案件について。直接、適格消費者団体に情報提供するために、何らかの根拠規定が制定され、さらに、それぞれのセンターの「消費生活相談業務要項」等で、相談者の了解を得た上で、情報提供できるという規定が必要だと思う。

下奥重望氏(消費者機構日本個人正会員)

 COJはニュースレターを発行しているが視覚障碍者の私は読めない。事案を検討する検討チームがあるのは知っているが、何を検討していて、どんなふうに事案検討が進んでいるかは知らない。その疑問を事務局にぶつけたところ、個人情報の関係から関係者でないと開示は難しいとの説明があった。COJのことを一般の人に知ってもらうのであれば、検討に参加できる機会を作るべきと思う。
 本日、多くの方が参加しているが、私のような視覚障碍者には誰が参加しているのかわからない。皆さんが日常的に、どのような活動をしているのか知らない。10年間、正会員になっていて横のつながりをもつことができていない。杉並区で地域大学、生涯学習の時間があった。グループ分けされて席は自由だったが、私は視覚障碍者のため担当者に相談したところ、今後、参加者は1分間の自己紹介等をしようとなり、交流が深まった。
 外部との連携も大事だがCOJで交流を深めてお互いを知っていかないと、会員拡大につがながないと思う。
 皆さんはよくCOJの活動についてはHPを見てほしいというが、一般の方々は見ているのだろうか。COJは素晴らしい活動をしていながら、知られていないというのが現実だろう。COJの役員であって大学の先生であれば、COJの存在と活動を学生に伝える。役員が団体所属であればCOJの冊子を一般の方々の目につくとこに置いておく等、いろいろなことができると思う。
 COJは研究者集団だと思っている。一般消費者向けではない。私が正会員になってのこの10年、消費者向けのイベントはなく、会員交流があったのは今年の2月ぐらいであった。
 皆さんはCOJの活動を伝えてきたか、伝えようとしてきたか。会員拡大のアイディアを出し合い、実行できてきたか。振り返ってもらいたい。今後の10年、20年のために。活動資金や検討するマンパワー、若い人材参加も必要。COJの活動を知ってもらって、巻き込んでいく、最後に会員になってもらう、活動のすそ野を広げる方法を話し合ってほしい。

コーディネーター:二村睦子氏

 今回は少し遠くを見る議論であった。足元だけ見ると持続可能性が危ぶまれるのだが、将来的に発展させていくべき制度である。発展への道筋を拓いていくためには、当事者である適格消費者団体からの発信が欠かせない。実際の制度の活用を進めつつ、政策制度提案の取り組みを強化していく必要があると感じた。