消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

イベント等

第20回 通常総会記念企画 開催報告

 下記のとおり、第20回通常総会記念企画を開催したことをご報告いたします。

1.日 時
2024年6月11日(火) 18時30分~20時05分
2.会 場
主婦会館プラザエフ 4階シャトレ
3.参加者
64名(会場参加者29名、オンライン参加者35名)
4.テーマ
COJの20年を振り返って
5.パネリスト
①磯辺浩一さん  消費者スマイル基金事務局長
②後藤巻則さん  消費機構日本会長・早稲田大学名誉教授
③佐々木幸孝さん 消費機構日本副理事長・弁護士
6.コーディネーター
二村睦子さん  消費機構日本理事長

企画概要

 現在、消費者庁・消費者委員会で消費者法制度のパラダイムシフトに関する議論が進行中している。消費者法の役割や射程の拡大が検討されるとともに、その一翼を担う者として消費者団体、中でも適格消費者団体の役割も重要な論点である。消費者団体訴訟制度の再検討には、その担い手である適格消費者団体からの発信が欠かせない。9月のCOJ20周年記念日を目途に、何らかの発信を準備していきたい。

 その手がかりを得るため、今シンポジウムでは、これまで20年間のCOJの取り組みをふりかえり、その成果を確認し、9月に向けて検討を深めるべき領域を見定める。

二村さん:
先ずは磯辺さんから、20年の成果についてお話しいただきたい。
磯辺さん:
差止請求と被害回復の特徴的事案についてふりかえる。
先ず差止請求訴訟としては、入学時諸費用の不返還条項をめぐって最高裁まで争ったエーチームアカデミーへの裁判が挙げられる。「消費者契約該当性」や「入学し得る地位の対価性」等について、貴重な裁判例となった。
裁判外の差止請求の中でも、業界全体への影響が大きかった事例としては次のような事案が挙げられる。
  • 有料老人ホームの入居一時金に関わる差止請求。この問題は社会的に注目され、消費者委員会が取り上げ、老人福祉法の改正につながった。
  • 建築工事請負約款の不当条項の差止め。COJで建築請負検討チームを立ち上げ取り組み、9件の是正を行った。業界紙には「約款の“不当条項”追及が始まった」として特集記事が掲載された。
  • スポーツクラブ会員契約における不当条項。他の適格消費者団体と連名でフィットネス産業協会に要請書を出し、業界団体からの注意喚起につながった。
  • 銀行カードローンの相続開始時の期限の喪失条項。他の適格消費者団体と合わせて26件の申し入れを行った。その状況について国会質問が行われ、金融庁から業界に改善要請が出されるに至った。
被害回復訴訟は未だ件数が少ないが、大学医学部の不正入試に対する訴訟では、少額多数の被害回復を図ることができた。また、ワンメッセージ裁判では最高裁まで争った結果、支配性要件の解釈・運用について、制度の趣旨に沿った判断をえることができた。
被害回復制度は、成果と課題を踏まえた見直しが図られており、今後の活用が期待される。また、団体の財政基盤の面でも被害回復訴訟の収益が貢献している。しかし、この訴訟の収益を結びつけるにあたり事案を選択していく必要があり予断を許さない。
二村さん:
多くの成果を生んだ20年だが、その中で制度的な課題も見えてきたのではないか。差止請求の実践からみた制度の改善課題について後藤先生から。
後藤さん:
差止請求制度が2006年に消費者契約法に導入されて以降、景品表示法、特定商取引法、食品表示法にも拡充されてきた。これまでの適格消費者団体の実践が法解釈や法改正につながったことも成果として挙げることができる。しかし、適格消費者団体による差止請求権の行使は、法解釈の変更や法改正に至らない場合であっても、市場の監視や健全化に向けた意義がある。
個別訴訟が個々の契約における当事者の意思解釈に重点を置くのに対して、適格消費者団体による差止請求訴訟は、個別事案を離れて契約条項の使用停止や勧誘停止等を求めるという特徴がある。その結果、差止請求制度は、個別の具体的事案を前提とせずに、問題となる契約条項の使用等を市場で継続してよいかという観点から、事業者としてあるべき行動の基準を明らかにすることに寄与している。
大きな役割を果たしてきた差止請求制度だが、更に個人情報保護の分野での差止請求や、通信販売における意図しない定期購入契約に申し込むよう誘引する広告の差止請求なども問題となり、課題も多い。消費者契約法や景品表示法で適格消費者団体が事業者の有する情報にアクセスする権限を強化する制度改正も行われているが、一層の制度改善が必要である。
この20年は実践で手いっぱいであった感がある。消費者基本法8条にある政策提言機能を発揮するための方策を検討することも重要な課題である。
二村さん:
被害回復の実践からみた制度の改善課題について佐々木先生から。
佐々木さん:
被害回復の直接の成果については磯辺さんから報告があった。私の方からはCOJの実践が目に見える形で制度改善に繋がった点について報告する。
消費者裁判手続特例法の施行後4年経過時に消費者庁からこの法律の運用状況を踏まえて制度の評価と改善を議論する検討会が設けられた。その検討会でCOJが直面している被害回復での問題点を報告したところ、実際の運用状況を踏まえて必要な見直しを早急に行うという観点から法律改正を提言してくれた。これが令和4年の法改正に結実している。
例えば、医大訴訟の経験が慰謝料の検討につながり、ワンメッセージ訴訟の経験がいわゆる黒幕の検討につながったことなどだ。ただ、この検討会ではワンメッセージ事案で直面した支配性の要件に関しては多少のリップサービスはあったものの改善には至らなかった。これについては2024年3月の最高裁判決まで待たなければならなかった。
被害回復事案に関しては頭を悩まして第1号事案を選定した。この制度の社会的認知が充分ではないことは認識している。社会的認知を受けるよう事案を選定し提訴するたびに記者会見を行ってきたが、社会的な認知はまだまだ十分とはいえない。
二村さん:
成果と課題について各パネリストから報告いただいた。ここで実際に事案委かかわった方々からご発言いただきたい。
中野さん(弁護士):
銀行カードローンの期限の喪失条項について、民法ではそのまま相続人に引き継がれるが、なぜか一括弁済を求められる。消費者契約法10条違反として三井住友銀行側と交渉した。当時の最高裁判決を根拠に規定では問題であるかもしれないが実務においては不利益がないよう取扱っているとの回答であった。消費者は条文を見て委縮してしまうのであり、最高裁が常に正しいわけではないので我々は申入れをすると述べたところ、その場で改定すると回答があった。その後、申入れをしたすべての銀行で改定がされていった。差止請求としては良い事例なので全国の適格消費者団体にお知らせして他団体からも多くの申入れが行われた。
現在係属中の山梨訴訟の関係で言うと、消費者契約法12条3項の差止請求権の規定に「現に行い又は行うおそれがあるとき」の2つがあるが、行うおそれがあるときは認めない雰囲気が裁判所にはある。ブラックリストはもっと明確に数も増やして、消費者がこういう条文があるのでおかしいとすぐ主張できるようにしていく必要がある。
被害回復は、破綻しそうなところはもっと早めに何かできないか。断念したケースもある。制度的に解決できるものがあればいい。
木村さん(相談員):
2013年から14年にかけてフィットネスクラブ検討チームに所属して規約を検討した。実は、消費者契約法ができる前の昭和61~62年の国民生活審議会消費者行政部会の報告書で既に不当条項であることが指摘されており、様々なフィットネスクラブの規約を検討したが非常に問題が多かった。例えば、会費の不返還特約、理由の如何を問わず返還しない、紛失・盗難・傷害があっても一切の責任を負わない、ビジターとして友達を誘って利用した場合、連帯責任が課せられるなどだ。検討後、それぞれのフィットネスクラブに申入れを行い、景品法の有利誤認、明確かつ平易な表現がされているかをさらに検討して申入れと質問を重ねていった。
COJが他の適格消費者団体6団体に働きかけて、業界団体(フィットネス産業協会)に対して要請活動を実施したのは非常に有意義であった。その後、フィットネス産業協会から会員規約改正版が出された。
現在、パーソナルトレーニングや簡易なスポーツクラブが普及している。個社というよりは業界全体に対して健全な運営がされるよう適格消費者団体が何か取組んでいくことが今後の課題であると思う。
大谷さん(相談員):
木村さんが報告されたような業界を相手にまとめて改善を図る方法は、継続的に事業展開している業界に対しては有効である。ただ、最近COJに情報提供される案件にはレスキュー商法、定期購入、詐欺的商法に関するものが多い。このような事業者はすぐに所在が無くなってしまい、連絡が取れない。これらに対しては業界を相手に取組んでいくのは難しい。
このような連絡がとれない事業者に対しては、これまでと違った視点からの新たな取組みが必要になってくるように思う。ネット広告、SNSやマッチングアプリが入口となり被害に遭うケースがほとんどである。やはり入口の視点、web広告、SNSやデジタルプラットフォーマーの観点から有効な取組みを視野に入れて検討していく必要がある。
二村さん:
では、会場からのご発言をいただきたい。

【質疑・応答概要】〇会場参加者●パネリスト

被害回復について、長らく訴訟4件に留まっていたが、昨年急に4件増えた状況になっている。その原因は何か考えていたところ、大阪の五條先生から2022年の改正によって和解がかなり柔軟になったことが原因のひとつではないかという示唆をいただいた。実際に訴訟をしている当事者からみて今回の改正による和解、訴訟後即和解できるような建付けつけになったことがその要因と考えて良いだろうか。
和解で事件が解決できるようになりハードルが下がっていると思われるのは、係争額である。全部通して手続きを進めていくとするとそれなりのコストがかかる。それから考えるとこれくらいの係争額では提訴に進めないケースがこれまでもあった。それを第一段階目での和解含みと考えれば、簡易確定手続にすすむ前の段階で決着させることができればCOJでは費用の負担がないまま被害回復ができる。こういったことが原因と思われる。
それから重い手続きで最後までやり遂げることを考えると、簡易確定手続開始の申立義務の免除にある程度の事情が斟酌されるようになったこともあるだろう。ただ相手方がどうしても最後までやるとなったときのリスクを負うことは計算の上で進めないといけないので判断が難しいのはそのままである。
エーチームアカデミーの差止請求は、学校教育法に基づく学校ではなかったから消費者ということで救済されたと個人的には感じている。仮に高校や大学で同じようなことになった場合、入学金の返還は認められないと考えてよいだろうか。
学校教育はビジネスとビジネスの取引ではなく消費者契約であり、受講者は消費者である。エーチームと大学では入学金の位置づけが違う。本件は2,000人も一度に入学させてその半分も卒業しないで退学していく。これを大学の入学金と同様に「入学する地位の対価」として扱うことはできない。
簡易確定続きに至った方に、障害がある方がいたか。視覚障害の方は契約書はまず読めない。口頭で説明された情報でしか判断できない。限られた中での判断になる。今までの事案で障害を持った方からの相談があったか。
被害回復の事案に関してこれまでなかった。COJからの発信が届きやすいものになっていないこともあるだろう。障害を持った方への配慮は今後重要となる。
二村さん:
9月に開催する20周年のシンポジウムでは、さらに踏み込んだ議論をしたい。それに向けて本日のパネリストから今後に向けての論点あるいは消費者問題としての課題についてコメントいただきたい。
佐々木さん:
事業者との連携の視点でコメントする。差止請求と被害回復にしても公正な取引社会を実現するためであり、法にしたがって事業を営む事業者にとってはメリットになる活動の筈である。しかしながら現実には、消費者関連法の改正や適格消費者団体の権限の拡張に関して多くの場合事業者団体は反対姿勢である。事業者の適格消費者団体に対する認識が不充分であり、適格消費者団体と事業者の間の情報交流や意思疎通が充分でないところに原因があり、今後の課題である。
例えば、中古車業界は違法な行為を行うアウトサイダーが多い。こうした業界で事業者団体との情報交換をはかり業界の健全化のため協力関係を築けないか。適格消費者団体の限られた資源を考えると、スポーツクラブへの申入れの例のように、事業者団体のある業界に申入れをしていく中で情報交換と意思疎通をはかり我々の団体を理解してもらうのが重要である。事業者とその団体のできるところから情報交換と意思疎通をはかり消費者団体訴訟の理解を広げる必要がある。
後藤さん:
破綻必至商法のような悪質商法に対しては現行法の枠組みで対応するには限界がある。悪質事業者に対しては、違法収益の剥奪や財産保全を行うための行政的手法が必要である。破綻必至商法を行う事業者に破産手続き開始原因がある場合には行政庁に悪質事業者に対する破産手続き開始の申し立て権を与える制度の創設などが議論されている。この問題については、行政による破産申し立てではなく、適格消費者団体に破産申し立て権を与えることも考えられる。もっとも、被害回復が期待できないにもかかわらず、特定適格消費者団体が被害回復申し立てのために破産申し立てをする役割を担うことは過度の負担となる恐れもある。相当多数の消費者被害の被害回復という一次的に求められる役割に注力することが望ましいのではないか。特定適格消費者団体に一般的な形で破産申し立て権を認めることは慎重に検討する必要がある。
他方で、消費者裁判手続特例法に基づく手続きが追行される中で事業者が破産状態に至った場合、簡易確定手続きから破産手続きへの円滑な移行を可能にするために特定適格消費者団体に破産申し立てを認める方向性が考えられる。もっともこの方向性についても実現のためには予納金の負担のあり方、破産原因の立証およびそれに関する情報取得の手段のあり方、破産手続きにおける特定適格消費者団体の立場として、申し立て以上の関与を想定すべきか否か、といった課題について検討することが必要になってくる。
破産手続きへの特定適格消費者団体の関与としては、他に破産手続開始決定後の債権届出や配当金の受領など、手続きの一部について特定適格消費者団体を活用することも可能性として考えられる。破綻必至商法への対応においても特定適格消費者団体がどのような役割を果たすことができるか検討していく必要がある。
適格消費者団体ないし特定適格消費者団体の実践とともに、それを踏まえた政策提言機能を発揮できる体制づくりを目指すことも重要な課題である。
磯辺さん:
消費者法制度のパラダイムシフトについて議論がされている。その議論の中で適格消費者団体への期待が語られているし、また、個人情報保護委員会もおいても個人情報保護法での差止請求権や損害賠償請求権が個人としてはほとんど行使されていないことから適格消費者団体への期待が高まっている。
これまで消費者契約法や消費者裁判手続特例法に合わせて一定の体制を組んできたが、今後の展開に際しては、先行して状況を把握し政策提言してくことが求められている。適格消費者団体が力を発揮しなければならない場面がでてくると思う。検討すべき課題は多いが、9月のシンポジウムに向けて諸課題の把握、提言に向けた準備が進むことを期待する。
二村さん:
本日は20年間の成果と、実践から見えてきた課題を共有した。9月に続編となるシンポを予定している。さらに視野を広げて議論できると良い。