消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

イベント等

第18回 通常総会記念企画 開催報告

 下記のとおり、第18回通常総会記念企画を開催したことをご報告いたします。

1.日 時
2022年6月14日(火) 18時45分~20時30分
2.会 場
オンライン開催(主婦会館プラザエフ 5階会議室)
3.参加者
94名(事務局を含む)
4.テーマ
「改正された被害回復制度を活用しよう」

報告概要

 2022年の通常国会にて「改正消費者裁判手続特例法」が成立しました。改正法は、この間の被害回復訴訟の取組で明らかになった問題点を踏まえ、その改善を企図したもので、今後の実務で活用できるものです。

 被害回復を推進していくために、改正法をどのように活用していくかについてオンラインシンポジウムを行いました。

(1) 消費者裁判手続特例法 令和4年改正について

報告者 消費者庁 消費者制度課 政策企画専門官 伊吹 健人さん

<報告の概要>

 資料に沿って消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の改正について下記の改正事項ごとに報告がありました。

 1.対象範囲の拡大、2 和解の早期柔軟化、3 消費者に対する情報提供方法の充実 、4. 特定適格消費者団体を支援する法人を認定する制度の導入、5.特定適格消費者団体の負担軽減等、6.消費者保護の充実

(2) パネルディスカッション テーマ「改正特例法 どう活用するか」

パネリスト
弁護士 仲居 康雄 さん(当機構 専門委員)
弁護士 中野 和子 さん(当機構 理事)
弁護士 鈴木 敦士 さん(当機構 理事)
弁護士 本間 紀子 さん(当機構 専門委員)
コーディネーター
弁護士 佐々木 幸孝 さん(当機構 代表理事・副理事長)

<発言概要>

佐々木さん:
先ほど消費者庁の伊吹専門官から説明がありました、特例法の改正を受け、当機構としてどのような活用が考えられるか、あるいは改正後も残された課題について、これまで弁護団のメンバーとして実際に改正前に苦労をされておられた方々とそれぞれの改正項目に関してのパネルディスカッションを行います。
論点1 一定の慰謝料請求について
佐々木さん:
今回の改正議論のなかで大きな争点となったのは、特例法による損害賠償請求の対象として、慰謝料を認めるかどうかということでした。これまでは慰謝料請求ができなかったために、COJ が提訴した東京医大事案では、個別訴訟では当然請求できるはずの慰謝料請求はできず、主として受験料相当額の請求に終わっていました。改正論議の中では事業者側の強い反対もありまして、すべての慰謝料を認めるというわけではありませんが、一定の慰謝料請求が認められることになりました。医大の関係の訴訟を担当されてこられた本間さんから、今後この制度の中で今回の改正をどのように活用できるか、また、残された課題などがありましたら、それもお話し下さい。
本間さん:
慰謝料は、今回の改正のひとつの大きな目玉ということで、大いに評価しているところです。慰謝料は、最初に特例法を作る時から対象にすべきだと、一定の範囲のものは取り込むことが可能だというような議論がされました。今回一定の条件があるものの、慰謝料の一部についてある程度取り込むことができたというのは、非常に大きな意味があると考えています。私自身も東京医大と順天堂の医学部の不正入試に関する共通義務確認訴訟に代理人として関与してきましたが、この訴訟では受験料とわずかな郵送代や受験料の振込手数料に残念ながら留まったという状況です。この2つの医大の事件は、今回の改正法のもとでは慰謝料請求が可能な事案でしたので、もしも早くこの制度ができていたとしたら、もっと大きな成果が得られていたのではないかと思っています。この医大の事件の損害額は、1回あたりの受験料は4万円や6万円であり、平成29年度と30年度、さらにはセンタ-利用等様々な試験区分があるので、複数回受験すれば十数万円の請求にはなるんですが、1回の受験ではわずかな金額となり、戻るのは受験料だけかと思っていた受験生もいたのではないかと思います。実際、その東京医大については、アンケートを実施しており、回答者の46%の方々が一定額でよいので慰謝料請求できるようにして欲しいとの回答をされていました。特に今回の医大の事件の不法行為の内容というのは、女性や浪人生といった属性を理由とする得点調整や不利な判定基準での評価が、秘密裏に行われていたということで、受験生らの損害が受験料などの経済的損害に留まるものではなく、経済的損害とは別に一定の慰謝料請求が認められてしかるべき事案であることが、特徴としてあると思います。実際に、この医学部の不正入試の問題については、女性弁護団が、複数の受験生から委任を受けて損害賠償請求訴訟を行っており、順天堂については5月19日に東京地裁で判決が言い渡され、一律30万円の慰謝料が認められています。もし、COJが手掛けた共通義務確認訴訟において一律の金額の慰謝料の支払義務があることの確認を求めることができていたとしたら、30万円という同じ金額になるかとはともかく、一定の慰謝料請求が認められた可能性は高いといえるのではないでしょうか。ちなみに、現在、順天堂については、2段階目の簡易確定手続き中ですが、順天堂から受験生の方々の情報提供をいただけましたので、個別に通知をして実際COJに届出の依頼があったのは、1,197名でした。これは通知した数の約半分となります。東京医大は、名簿が廃棄済だったこともあり、届出数はもっと少なかったわけですが、被害回復が簡単に、この制度でできますよといっても、理由はいろいろあるとは思いますが、なかなか届出をしてもらえないのが実情です。もし受験料だけではなく慰謝料も払ってもらえるということであれば、もっと多くの方から届出をしてもらえたのではないでしょうか。先ほど、その女性弁護団の訴訟で、一律30万円の慰謝料が認められたという話しをしましたが、原告が何十人、何百人もいるといるいうわけではなく、個別に弁護士に依頼して慰謝料等を請求したのは、結局、10名程度のごくわずかな人数でした。一方で、COJが通知を送ったら、1,000人以上の受験生の方々から届出の依頼があったという事実があるわけで、これをどう考えるかですが、やはり個別に弁護士に費用を支払って依頼して、事業者に対して損害賠償を請求していくというのは、消費者にとって、非常にハードルが高いということが、今回、如実に表れた結果だと思います。したがって、今回の法改正で慰謝料請求が一部認められたということは、非常に大きな意味があると思います。ただ、一方で残された課題として、慰謝料請求が一定の範囲に限定されてしまったこと、中でも故意によるものに限定されて重過失が落ちてしまったというところが問題であると思うところです。しかし、その点はこれからの課題ということで、まずは、この制度を担う団体として、新しく与えられた武器を実際利用してみること、そしてその中で今後に繋がる問題点を浮き彫りにしていくことが必要であると考えているところです。
論点2 被告に事業者以外の個人を追加
佐々木さん:
この制度ではこれまで、被告にできるのは原則相手方事業者で、例外的に不法行為の場合に履行、勧誘、助長する事業者に留まっていたわけです。そのため事業者の経営者や被用者である個人などは被告にできませんでした。COJの提訴事案の中ではワンメッセージ案件では、背後にいる個人も個人業者として被告にしているわけですが、ワンメッセージの弁護団の仲居さんから、その辺の問題点と、今後改正されたことでどのような活用が考えられるのか、また残された課題などお話し下さい。
仲居さん:
ワンメッセージに対して共通義務確認訴訟をCOJの原告として提起しました。その中で勧誘に携わった個人も一緒に勧誘を行ったとして被告としております。ワンメッセージのように、情報商材被害と言われるものは、実際の内容と異なる勧誘によって販売するというようなもので、こういった商材は、悪質商法、悪徳商法といわれています。当然、携わるものは責任追及を想定して備えるため、結局法人に対して責任が認められても個人には財産がない場合は、回収ができないということがあり得ます。今般、先程の伊吹さんのご説明にもありましたが、事業監督者であるとか、使用者であるとか、一定の要件の下ですが、対象が広がったということで、その分、責任追及する対象が広がっているということは、消費者の被害回復という観点からすれば、素直に良いことであると思います。事業監督者という概念がはっきりしませんが、悪徳商法のようなものであれば、法人形態で事業を行っても、少なくとも代表者については、すべてではないにせよ事業監督者になり得ると考えております。そういう意味で、今後、我々としても、責任追及する場合の事案の分析や証拠の収集において、事業監督者として、どこまで範囲を広げられるかということを意識していくべきであると思っております。事業監督者が悪徳商法に携わったいうことであれば、それは、当然、責任追及することができることになると思います。ただ、今回は、その責任も故意重過失に留まり、民法からすれば、少し範囲が狭まっており、この辺について若干の危惧を持っております。
論点3 一段階目和解の柔軟化
佐々木さん:
これまで第一段階目の訴訟手続きでは、共通義務の存否に関する和解しかできなかったわけですが、これからは共通義務の存否を前提としないもっと柔軟な和解による解決が可能となりました。改正された条文上はこういう和解が可能というような定めはないのですが、これまで東京医大、順天堂大学に対する訴訟を担当してきた鈴木さんから、今後想定される和解の形などにも触れながら、改正の意義、今後の課題などお話しください。
鈴木さん:
説明がありましたように、条文上はどんな和解ができるかは書かれておらず、 2段階目の手続きを使う関係で、一定の和解をする場合には、こういうことを定めてくださいというような規定があることと、2段階目の規定を必ずしも使わなくても良くなったというような変化があります。いろんな和解が可能になったので、大変良い改正だと思っています。例えば、COJが最初の頃に取り組んだオーガニックシャンプが、実はオーガニックでなかったというので、返金を求めて事業者に自主的に返金してもらったケースがあるんですが、こういうことを考えると、義務を確認しなくても和解できるというのは、メリットなんです。外国の会社ですと、外国での訴訟に影響するので責任を認めたくないということがよくあります。そうすると、責任の有無を定めるのでは和解ができないということになります。責任を認めずに一定の解決をする和解のやり方として、例えば1個あたりの金額を決めて、簡易確定手続きを利用することができるし、団体が消費者からの申入れを受け付けて配分し、事業者がその配分するための費用も負担するとして簡易確定手続きを使わないでもできます。逆に事業者が通知をして申入れを受けて返金しますということもできます。あるいはその事業者が通知して申入れを受け付けみたいなことにすると、どうやっているのかよくわかんないなんていうことで、第三者に委託するとか、あるいは 特別な財団を作るとかして、そこが分配手続きをして、費用は事業者が全部払うということなどいろんなことができると思うんです。ところがですね、例えば、購入個数に争いがあったらどうなるのか。当初和解をするときには、事業者も把握していなかったし、こちらも把握してなかったこと、特定の特約販売店が特別割引をしていたとか、セット商品があったとか、想定外の問題が生じたらどうするかということがあります。だから、そういうことも含めて、色々和解条項を検討しなければいけないんでが、集合訴訟での和解の実務経験が我が国では乏しいので、いろんなことを想定しながら和解条項を作る必要があって、それを研究していく必要があると思います。
論点4 消費者への情報提供方法 の充実

・事業者による個別通知と消費者の氏名等の情報開示の早期化

佐々木さん:
できるだけ多くの対象消費者に債権届出を行って貰うためには、対象消費者への通知をどうするか、ということは大事なことと思います。また東京医大事案では、大学側が対象消費者の住所等の情報を廃棄してしまっていたために、COJから届け出を促す通知が送れなかったために、届け出をした消費者が少数に留まってしまったという事態が生じました。今回の改正では、事業者側も対象消費者に簡易確定手続に関する通知を行うこと、また第一段階において裁判所が事業者に対象消費者の連絡先などの情報を団体に開示する命令をする制度が創設されました。医大訴訟の弁護団の中野さんから、今回の改正の意義や今後の活用、残された課題についてお話し下さい。
中野さん:
共通義務確認訴訟を起こすときには、多数性が必要ですから何人ぐらいが対象になるかを見ました。東京医大の場合には各年度の女性受験生は大体1,500名ぐらいで、そうすると2年で延べ3,000名くらいが対象になるだろうという予測をして、訴訟をしました。共通義務確認訴訟で勝訴し簡易確定手続きに入りましたが、出願書類を処分したので住所連絡先がわかりませんと東京医大から言われた時には、大変なショックがありました。3,000名くらい連絡できると思っていましたが、結局、600名弱というところで終わってしまいました。これと同じような出願書類を処分したという大学が聖マリアンナ大学ですが、大学側が広報して対処しました。他方で、昭和大学は、5,738名の方に連絡して、9割5,232名の方に返還したということがありました。実際に、東京医大に対しては、2017年と2018年の試験について訴訟を起こしましたが、同大学の第三者委員会の報告書が公表されたのが2018年の8月ぐらい、提訴したのが同じ年の2018年12月で、いつ処分したのかという感じがあります。2018年中に提訴して、それで第1段階のところで情報提供ということが可能になったということであれば、もっとたくさんの方に連絡をして、救済ができたのかなと思っております。こういう形で早く情報提供いただけるということになったことは、とても消費者にとっては良いことだと思っておりますが、実際に本当にさっさと処分してしまった場合は、どうするのかという課題が残ると思います。
論点5 消費者保護の充実

・消滅時効の特例の整備

佐々木さん:
今回の改正では消滅時効の特例が改正されました。共通義務確認訴訟や簡易確定手続の却下、取下げ、簡易確定手続を申し立てなかった場合など、権利の実質審理に入らないまま手続きが終了してしまった場合に、対象消費者が6か月以内に訴訟提起などをすれば消滅時効の完成猶予がされる、という内容です。従前の制度の問題点に関しては、ワンメッセージ弁護団から提起されていたものと思います。弁護団の仲居さんから、その問題意識と、今回の改正の意義などをお話し下さい。
仲居さん:
先ほど少し申し上げましが、ワンメッセージという会社を相手どって共通義務確認訴訟を提起しました。これは、「仮想通貨で儲けましょう!日本人全員を億万長者にする歴史的プロジェクト」ということで勧誘をしたのですが、現実にはとてもそんなことができるようなものではない、勧誘は違法ではないかということで訴訟を提起したという事案でした。先程の専門官のご説明のとおり、勝訴すれば問題がありませんが、そうでない場合には、COJの訴訟活動に期待していた消費者にとって、時効が進行してしまうということで、今までにない不利益なことが起こるのではないかということを心配していました。ワンメッセージの場合、COJのホームページでは、その注意を促すことも載せています。そういう意味で、今回の改正は、却下という場合でも、猶予されるという制度になります。現にワンメッセージの場合は、1審2審とも却下という結論です。現在は、最高裁に上告受理の申立てをしている段階です。我々としてはなかなか承服しがたい判決ですが、現にそうなっておりますので、今回のような改正は、当然だと思っております。ただ、共通義務確認訴訟というのは、今までになかった訴訟認定でやっていますので、なかなか制約の多いものですから、果たして、却下であるとか、取り下げに限るということで良いのか、もう少し対象を、例えば、請求却下の場合はどうなるかということは、心の片隅に疑問を持っております。
佐々木さん:
こちらも団体が勝つもりで訴訟を起こしているわけですが、それにも関わらず、その推移を見守っている消費者に対して、敗訴したら消滅時効が完成するかもしれないので訴訟を起こしてくださいと、公表、告知をすることは我々も矛盾を感じていたわけですが、一応、本案審議や簡易確定手続に入らなかった場合については、こういう形で時効の完成の猶予ができるということになったわけです。もう少し付け加えるとすれば、我々を信じて訴訟の推移を見守っている消費者がいる中で、我々が負けてしまった時にですね、それはあの適格消費者団体、特定適格消費者団体が負けてしまったんだから、しょうがないじゃないかというふうなことでいいのかどうかは、仲居さんのほうから今問題提起があったのだと思います。同じようなことは、和解をする時に、消費者の方の要望と必ずしもそぐわない和解の場合に、そこまで待っていた消費者の方が、やっぱり時効の完成を見てしまうというのはどうなのかというようなこともあろうかと思います。そういう意味では、検討すべき課題がまだ残っているかなとは感じます。

・記録の閲覧主体の制限

佐々木さん:
簡易確定手続に参加した対象消費者の中には、参加することで個人情報が漏れてしまわないか不安を抱く人がかなりいました。東京医大案件で実施したアンケートでは、回答者のうち35%が個人情報の閲覧制限を望んでいました。改正で、どのような対応がなされることになったのか、なお残された課題などに関して医大弁護団の本間さんからお話し下さい。
本間さん:
民事訴訟法の規定では、訴訟記録の閲覧はだれでもできるというのが原則になっておりますので、改正法がまだ施行されていませんが、簡易確定手続きにおいても、裁判所に提出された書面というのは、誰でも閲覧できるというような状況になっているわけです。東京医大と順天堂などの事件では、さすがにそれはまずいということで、閲覧制限の申立てをしまして、いずれも閲覧制限の決定が出ています。ただ毎回、閲覧制限の申立てをするまでもなく、この手続きにおいては、一律閲覧制限をするべきではないのかということで、今回の改正後の54条で簡易確定手続に係る事件の記録の閲覧の規定が設けられるに至りました。具体的には、簡易確定手続きの当事者と利害関係人にあたる第三者については、事件記録の閲覧が可能で、裏返して言えば、当事者と利害関係があると認められた人しか閲覧できませんよ。という内容になっています。これで、団体が閲覧制限の申立てをするしないにかかわらず、関係のない第三者に事件記録を見られて、自分が届出をしたとか住所、氏名が知られてしまうということがなくなりました。それが、制度的に担保されたことで、消費者の心理的なハードルが下がったということになるかと思います。東京医大の事件の被害者の方々にアンケートを取ったところでは、約3分の1の人が個人情報の閲覧制限を希望していましたし、実際、東京医大の簡易確定手続きを進める中で、消費者の方から個人情報の取り扱いについて、問い合わせをいただいていました。事案の性質上、将来、医者になる人が大半で、そう広いとは思えない医療の業界で、過去に受験料の返還を求めて、裁判に参加したことがあるという事実が、将来の就職活動にどんな影響が出るかも分からないので、不安になるのは当然のことですし、その医大の事件に限らず他の事件においても、簡易確定手続きで債権を届け出るということは、自分は被害に遭いましたということと等しいので、被害に遭った事実が公になること自体に抵抗がある人もいます。自分の住所、氏名を他人に知られたくないことは当然のことだと思います。制度的に当事者の他は、利害関係が認められた人しか閲覧できないことが担保されていれば、前より安心してこの手続きに参加してみようという気持ちになってもらいやすいのではないかと思います。実際、いつ閲覧制限の申立てをしたのですか?閲覧制限の決定がでる見込みはどうですか?との問合せをいただいていたので、今回の法律改正による閲覧制限は非常によかったのではないかと、評価しているところです。
論点6 消費者団体訴訟等支援法人
佐々木さん:
特定適格・適格消費者団体はいずれも人的、財政的基盤は脆弱です。また公益的役割を期待されていますが、公的な支援は極めて乏しい。今回これら団体を支援する法人を認定する制度が導入されることになりました。この法人にどのようなことが期待できるのか、今後の課題などについて鈴木さんからお話し下さい。
鈴木さん:
改正された条文を見ますと、支援法人の認定について規定が山のように入っています。支援法人が、実際どういうことをやるかはっきりしないですが、私としては3点ぐらいのことが考えられると思います。東京医大の事件でもそうですが、2段階目の手続きで消費者に、消費者の名簿に基づいて通知をして、返事があった人に説明をします。授権に必要な書類をもらい授権の手続きをします。その後、裁判所に書類を出します。そうすると相手方が賛否を認めるとか認めないと言いますから、そのことを本人に通知して、団体としてはこういう方針で行きますがどうですかと、了解してくださいというような連絡をします。東京医大の場合は、途中で和解をしましたが、和解案をもう一回本人に送り確認します。こういう段取りで作業がありますが、そういった発送作業とか問合せ作業は、支援法人が代行してくれることになれば、それは便利です。ただ、その費用を払えば、支援してもらっていることになりません。支援法人自身も独自の財源があるわけではないので、これはなんらかの形で国から出るようにすること、が必要だと思います。対象消費者と色々やり取りをするわけですが、システム化することが必要だと思っています。裁判もIT化をするということになっていて、今のところ簡易確定手続きは、まだその制度がないのですが、簡易確定手続きも今後検討されるから、裁判所のシステムとの連携も必要です。また、先程、例に挙げたオーガニックシャンプで、メーカーが直接売っている通販では、メーカーが購入者を把握できますが、販売店が売っている人には、全員には通知ができないかもしれません。そうするとその広告を打つことが必要で、オーガニックシャンプの広告が載っていた媒体に、簡易確定手続きが始まりましたと広告を打つことが必要で、それにはそれなりに費用がかかります。そういったところに支援をするようなことができないかと思います。
論点7 行政機関から特定適格消費者団体への情報提供の拡充(令和4年6月1日施行)
佐々木さん:
今年の6月1日に改正特商法、預託法が施行され、その中に行政機関が事業者に行った行政処分等によって得た情報が特定適格消費者団体に提供される旨の規定があります。事業者の情報、たとえば資産に関する情報等は外側からはなかなかわからないので、これらが開示されれば検討を行う上で、一定有益なのではないか、とも思われます。この点に関して期待が持てるのか、どのような問題があるのかなどについて中野さんからお話し下さい。
中野さん:
今年の6月から施行されている情報提供の拡充の問題になります。お手元の資料にもあると思いますが、消費者裁判手続特例法91条第1項によって、消費者庁から提供いただけるということになっています。これは何をいただけるかというと、消費者庁が処分に関して作成した書類をいただけるとあります。処分に関して作成した書類なんですが、内閣府令で定めるものを提供できるという法的根拠があるということは、大変重要なことです。以前、海外でも日本のテレビが見られるとのUSB事件にて、強制処分が行われましたが、訴訟を起こしても資産がないと後ができないので、資産確認のために行政側から情報提供を得ろうとしたんですが、根拠がないから出せないと言われました。そのため、今回、根拠ができたということは、大変良かっと思います。しかし、問題は、「処分に関して作成した書類」という限定がついているということです。処分に関して「収集した」書類ではないのです。誰が、作成した書類かというと、消費者庁で作成した書類という限定がついていて、内閣府で定めるということで試行錯誤はありますが、消費者庁が提供する書類という条文第25条があり、第1項から見ていきますと、普通に誰でも取れる情報公開制度のものとなっていることが分かります。ただ第4項で消費者庁長官は一応不提供情報の中でも「特に長官が必要であると認める場合」には提供することができるということで、個人ができる情報公開制度よりは、少し異なるかと思います。ただ、必要な情報かどうかは、私たち団体が必要だと思った書類ではなく、消費庁長官が必要だと思った書類です。消費者団体向けの情報提供について少しは根拠があるということです。根拠があるという点では、まあ大変良かったかなと思います。実際に書類の提供を請求する時には、取り扱いは厳重にするわけですが、提供を受けようとする書類の範囲、その他の内容を明らかにして請求しなくてはいけないことになっています。ただ、団体としては、一体、消費者庁長官が何を作っているのか、何を持っているのかわからないという状況ですので、とりあえず書いて請求を出すというようなことと思います。ただ、処分調書は、公表されていないものですが、それをいただけるようですので、その点は、非常に、重要な書類をいただけると思っております。何度も言いますが、何を持っているかわからないところに請求することは、ちょっと雲を掴むというような話ではあるわけですが、処分調書に、消費者庁が私たちはこのことに基づいて認定しましたということを記載して作成していただけると大変助かるかと思います。この情報に基づいて、提出いただける資料と、裁判所から裁判になった後で提出を求められるという時に出す資料との差があっても、それは仕方がないのかと思います。その場合でも、どんな文章があるのか、どんな書面があるのかということが、明らかでないと裁判でも文書送付嘱託の申立てをするところで何があるのか、ということになってしまうので、明らかにになるように、工夫して書類を作成していただけると大変ありがたいと思っております。また、原資料、一次資料で、それをどうするかという扱いについても、例えば、添付書類としていただくとか、何かそういう形で、消費者庁の作成書類にも加えていただければ、あるいは、そうでない場合には、やはり一次資料が、どうしても 最終的には必要になると思っておりますので、そこまではまだいけたかなという課題が見えたところです。
佐々木さん:
以上、実際に特例法による訴訟に関わってきた弁護士の方からご発言いただきました。今回の改正は、私たちが実践面で直面した問題点に対して、真摯にその解決に取り組んでいただいた結果と評価してもよいものと思います。もちろん、行使できる請求権や損害の範囲などで十分とはいいがたいところもあり、もっと使いやすいものとしていく必要があります。またこの制度自体に消費者被害の救済の観点からみると限界があるのも否めません。基本的に訴訟の対立当事者構造をとっているので、相手方事業者の資産状況などの把握にはどうしても限界がありますし、解決までにある程度の時間を要してしまいます。また届け出なかった対象消費者の経済的損失は事業者に利得として残ってしまいます。この点でアメリカのクラスアクションのオプトアウト方式のようにはいきません。また行政による救済手法を発動する方が救済に益する場面も多いように思われます。これらの点は、現在消費者委員会で「消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ」で検討されているところですので、その議論も見守りたいと思います。最後に、本日のパネリストの方々から、一人2分程度で一言ずついただければと思います。
各パネリストからまとめの一言
本間さん:
この法律は2016年10月施行ということで、早いもので5年半も経ちました。その間に、何件かの被害回復事案をCOJとして取り組んできましたが、実際に共通義務確認訴訟まで至ったのは3件でした。けれども、やはりその議論の中では、実際取り組みたくても色々なハードルがあって、残念ながら取り組めないというものがいくつもありました。また、医大事件のように、本当はもっと多くの被害回復が得られるのではないかという可能性のある事件もありましたし、中野先生からUSBの事件ということで紹介がありましたが、 根拠がないから出せませんというふうに、冷たく門前払いをされた事案もありました。今回の法改正によって、取り組める事案が広がって、また、消費者が安心して参加し易い、そういう環境を整備してもらったということは、非常にありがたいことだと思っています。せっかく武器を強化してもらったので、ぜひとも使っていきたいと思っています。なおかつ、この制度を使う立場としましては、社会的にインパクトがある事案にも今後も積極果敢に取り組んで、COJ自体の知名度、認知度を上げていければいいなと。そうなれば、COJに被害情報も入り易くなるでしょうし、この制度の好循環でうまく回るようになればいいなと思っています。
仲居さん:
共通義務確認訴訟を行っておりまして、却下という判決を受けているところです。その却下というのは、本件では過失相殺すべき事情があるんだ、ということで、それは個別に慎重に審理しなければいけならず、それで簡易確定手続きでは難しい、したがって共通義務確認訴訟に馴染まないということで却下ということになっております。この制度では、損害賠償請求というのは認められているので、損害賠償請求の場合の過失相殺はかなりよくあることなので、過失相殺すべき事情があるだけでこの制度を使えないことに大変危惧を持っております。まだ、最高裁での判断は出ていませんし、最高裁の賢明な判断を期待しますが、支配性の要件と言われる今申し上げたような、共通義務確認訴訟に馴染まないというものを却下できるということも、もう少し要件を考えていただきたいと思っております。
鈴木さん:
被害回復をし易くするためには、手続きの問題だけではなく、そもそも消費者契約法や特定商取引法などの実体法の見直しも必要なんですが、それをやっていく過程で、検討会に出てくる大きな企業は、自分たちは、しっかりやっているんですというようなことをいうわけですが、そうでない事業者が、いっぱいいて、だからこそ、法律で対応する必要があるんです。また、かなりひどい悪質商法などは、民事訴訟では限界があります。抑止については、行政処分や刑事罰があるわけですが、行政処分や刑事罰が出されても、消費者の被害は回復されていません。被害回復の制度がそもそも存在していないので、これをやっぱり作っていかないといけません。行政機関が違法な利益を吐き出させて被害者に配る制度がぜひ必要です。そういうことがないと結局、消費者契約法や特定商取引法を見直しをしたとしても、きちんと守っているか、守ろうとしているが失敗して守れなかったって人たちだけが、訴訟などで責任追及され、もともと守ろとしていない人たちは責任追及から外れていってしまうことになります。そうすると、しっかり守ろうとする人だけが負担が増えるという不満につながり、実体法の見直しも進まなくなるので、行政による違法収益の吐出し制度を作っていく必要があると思っています。
中野さん:
被害回復の訴訟ですが、いろいろご報告させていただいた訴訟以外では、起こっていなんいです。非常に難しいという思いがあります。というのは、やはり その資料を収集することは、損害賠償請求の根拠となる資料取集が非常に難しく、日本では実際に証拠を収集できる制度がないから、やはり踏み込めないということがあります。ただ、やはり行政処分を受けたような事業者の案件に関しては、 被害回復というのは当然セットであるべきと思っています。行政処分が出された場合に、被害を受けた消費者をどうするかを解決しないといけない思います。それは、あの景表法で処分された場合もそうだと思います。あの、特に景表法で、非常に単価の低い商品に関しては、そのままになっているのが実情だと思うのですが、そういうものまで特定適格でやることは、ほぼできないわけです。財政的にも、そういうものも含めて被害を回復するということを、行政処分をした案件に関してはできるような手続きをやはり考えなければいけない、先ほど鈴木さんのおっしゃったような、吐き出させるっていうことも、できそうな気がするんです。だから、その礎となるのが、私が先ほど申し上げたその情報を提供していただいて、それを適格消費者で活用することが一つあるとは思うのですが、もう少し、処分したから終わりということではなくて、訴訟が出来るようなところまで、開示してくれたらと思うわけです。我々は、民間であり、行政はごっそり持っているわけです。色んな処分はごっそり持っていっている中で判断したことですが、私たちはほとんど何もない中で、ちょこっともらって判断する。これではもう全然処理をすることができないと思っております。行政処分が出たようなものに関しては、もっと柔軟にこちらにも情報を提供していただけるということが大事だと思いますし、行政処分した対象事業者が、回答する場合にも被害の回復をするようなシステムを組み入れて、その改善を受け入れるというようなことが、やはり必要かなと思っております。
まとめ
佐々木さん:
パネリストの方から、改正法を今後利用していこうという抱負とともに、現行法のもとで適用範囲を狭くしようというふうな裁判所の考え方に対しては、それを広げていく努力していかねばならないこと、あるいはこの法律だけでは、消費者被害というものを解決できない、もっと新しい仕組みも考えていかなければいけないこと、それから今回改正されましたが、この法律はをもっと使いやすいことにしていくような、取り組みが必要だということが、述べられたかと思います。パネリストの皆さんには、本日はご多忙の中、ありがとうございました。色々ご参考になるご意見をいただきました。それから、今日会場でご参加の皆さん、ズームでご参加の皆さん、ご清聴ありがとうございました。これを持ちまして、本日のパネルディスカッションは、終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。