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第14回 通常総会・記念シンポジウム 開催報告
2018年6月8日(金)に第14回通常総会記念シンポジウムを開催しました。
- 日 時:
- 2018年6月8日(金)18時45分~20時05分(80分)
- 会 場:
- 主婦会館プラザエフ地下2階「クラルテ」
- 参加者:
- 64名
- テーマ:
- 集団的消費者被害回復の取り組みの状況と課題
企画趣旨
消費者機構日本が、特定適格消費者団体として認定をうけて1年半が経過した。共通義務確認訴訟に至った事案はないが、この間、裁判外で解決をはかってきた事案が複数ある。日ごろ消費者機構日本の活動にご協力いただいている方々が、総会に参集されることから、集団的被害回復の取り組みの状況を事案に則して報告するとともに、今後の課題(消費者機構日本としての課題、制度的課題)について考える。
出演者
- パネリスト
- 弁護士 瀬戸和宏さん
- 弁護士 中野和子さん
- 弁護士 北後政彦さん
- 助言者
- 山本和彦さん(一橋大学大学院 法学研究科教授)
- コーディネーター
- 弁護士 鈴木敦士さん
次第
被害回復訴訟制度の概要についておさらい
コーディネーターである鈴木弁護士から被害回復訴訟制度の概要について説明された。
この間、公表した事案についての紹介
以下の4つの事案を3名のパネリストから紹介した。
- 事案①(取組終了)
リゾート会員制度廃止予定事案(北後弁護士)
会員制度の一方的廃止通知に伴う損害賠償を申入れたところ、会員制度廃止の撤回となった。提訴に至らなかった理由は裁判外で対応されたこと、および多数性の確認が容易でないこと。 - 事案②(取組終了)
チケット代金不返還事案(北後弁護士)
興業中止のチケット代返還を要請するも回答なし。相手方の資力の確認が容易でなく、提訴しても回収できなければ授権した消費者に負担が生ずるのみであるため提訴に至らず。 - 事案③(継続中)
シャンプー誇大広告事案(中野弁護士)
誤表示で販売された分の返金を要請したところ、一部で返金対応を開始した旨回答あったため提訴に至っていない。 - 事案④(継続中)
情報商材事案(瀬戸弁護士)
確実に儲かるという趣旨の文言での勧誘がされており、代金返還を要請したところ、返金の姿勢を示す回答があった。単に「姿勢を示す」という内容にとどまっており、追加の情報収集を行っている途上。相手方の資力の確認が難しい。
パネルディスカッション
各事案をふまえて、各パネリストから被害回復訴訟の制度的課題、および消費者機構日本としての主体的課題について問題提起があった。
なお、問題提起にあたっては、これまで共通義務確認訴訟の提起に至っていない要因が大きく分けて次の3つあることを踏まえている。
- 消費者裁判手続特例法(以下、特例法という。)施行(平成28年10月1日)以降の契約事案または同日以降の不法行為事案しか対象とならない。当機構が特定適格認定を受けた平成28年12月27日以降しばらくは情報提供の多くが特例法施行以前の契約事案であり、対象事案とはならなかった。
- 多数性の要件を満たすかどうかの判断をする上で、多数の相談者に被害回復の請求権が残っているのかどうかを確認する方法が限られている。
- 相手方事業者の資力の問題で多数の被害者が損害金等を回収できると見込めない事案も多い(被害者が手続参加の費用を支払っても費用倒れとなってしまう。)。
パネリストからの問題提起
- (1) 制度的課題
- ①相手方事業者の資力の問題で損害金等の回収が見込めない事案への対応策として、悪質な事案で役員が資産を有している場合には役員を被告とできるように被告適格の見直しが必要ではないか。
- ②現状、共通義務確認訴訟提起の判断は相手方からの回収が見込めることを前提とし、また、通知・公告を行うことが必須とされている。しかし、事業者の行為が悪質で違法であることを明確にするために提訴して裁判所から宣言的な判決を出してもらうことも有意義ではないか。そのような事案では通知・公告を不要とする制度に変更できないか。
- ③被害回復訴訟手続の途中に相手方が倒産状態になった場合、現行制度では特定適格消費者団体は債権者ではないため破産申立ができない。この点への何らかの手当が必要ではないか。あわせて、相手事業者の資産確認の方法を拡充したい。
- ④行政機関から処分(特商法にもとづく業務停止命令や景表法に基づく措置命令等)が行われた事案について行政から情報提供が受けられるようにすることが必要ではないか。また、多数性を確認するためにPIO-NETで事案の処理結果まで提供を受けられないか。
- ⑤一人あたりの被害額が少額の事案に対応するため、訴訟のIT化により消費者、特定適格消費者団体、裁判所とのやりとりの費用を低廉化できないか。
- (2) 主体的課題
相手方からの回収が困難である場合や自主的対応が訴訟の途上でなされた場合であっても、消費者機構日本が共通義務確認訴訟及び通知・広告までの費用を負担できるように財政基盤の確保が課題である。また、事務局機能を拡充し法律専門家の関与を強化することも課題である。
助言者:山本教授の意見
- 悪質な事案で事業者の役員を被告とする件について 経済界の強い反対が予想される。悪質な事業者と通常の事業者を切り分けることが課題である。悪質な事業者で法人格が形骸化しているような場合にその背後にいる者を相手にするということはあり得ると思うが、これを法制化することはかなりの新機軸となると思う。
- 共通義務確認訴訟の判決を確認的判決にとどめうる制度とする件について 相手方が違法であったいうことの確認の利益が認められるのであれば、原告適格が比較的緩く認められているので制度的ハードルは比較的低いように思う。 ただ、ここでは確認の利益を説明できるかどうかということが問題となる。確認訴訟の利益は被告に遵法精神があり判決に従うことが前提になっている。悪質な事業者にはそのような遵法精神を期待できないとも考えられ、この場合に確認の利益があるのかということが問題となってくると思われる。
- 破産申立てについて 現状でも特定適格消費者団体が被害者の代行で訴訟あるいは強制執行ができることになっているので、破産でも代行できるとしても破産法上は問題ないと思う。ただし、これは事業者の解散につながるので経済界の反対が強いであろうという印象を持つ。かつて消費者庁が悪質事業者に対する破産申立権について議論したことがあるが、そこでも非常に抵抗が強かった。アメリカではクラスアクションがあり被害者を代表して破産の届け出をすることが考えられるが、日本はその制度がなく個々の消費者ごとに届け出るしかない。非常にアンバランスになっており、日本でもやはり破産において債権をまとめて届け出るという制度は十分あり得るだろうと思う。
- 資産確認の方法の拡充について 提訴するときに相手の資力を確認することは基本であり、非常に強いニーズがあることは理解している。しかし、財産情報は非常に重要な個人情報であり、企業にとっても一般に公開されることは問題がある情報である。債務名義を取得する前の段階で債務者の財産情報を得られる制度を創設するのはかなりハードルが高いと思われる。
- 行政からの情報取得について 個人情報保護の観点から判断が難しいこともあろうが、被害回復訴訟における特定適格消費者団体の役割は一種の公益的なものとして認定されている。行政との連携、情報交換を拡大していくのは、裁判所を経由して情報を取得するよりも実現可能性があるとの印象を持っている。
- IT化について 現在、内閣官房のIT戦略室で民事訴訟手続き本体のIT化が議論され始めたところで、民事訴訟全体のIT化ができるというのはかなり先の話になりそうである。 ただ、特に少額の消費者被害の救済のためにIT化が必要ではないか、IT化が望ましいという意見はあるようである。仮想通貨の事業者が破産した事件で海外の被害者からインターネット経由で事実上の債権届を認めたという事例がある。消費者被害救済という点では類似した部分があり、実務的なところでかなりの工夫ができるのではないか。
パネリストから
- とにかく逃げ足の速い相手なので、今の法制度は使いづらい。本当に先に財産を押さえる必要がある。いずれにせよ、東京地裁は事件を待っているので、ぜひ第一号をやりたいと思う。<瀬戸弁護士>
- 確認訴訟だけであっても「これは違法なのだ」ということで警告の意義がある。消費者との相談業務でも活用できる。事前に相手事業者の資産が分からないのだから、共通義務確認訴訟が終わった後に資産がないことが判った場合には、通知・広告の義務をなくしてほしい。<中野弁護士>
- 行政機関には情報開示を推進してもらいたい。民事訴訟には証拠が必要であり、どんなに違法と思えても証拠がなければ負けてしまう。行政処分するのであれば情報を開示するべきである。これは大きな課題であり、まずこれを推進してほしい。<中野弁護士>
- 証拠収集は重要な問題である。この集合訴訟制度を検討していた初期の段階でも証拠収集を何か考えられないのかというような議論があった。例えば、事業者がキャンセル料を設定するにあたって根拠とした資料を事業者から取れないのかというような議論がされたが、制度設計が大変で周辺部分までは取り込めなかったということがある。あらためて、そのような議論をしていかなければいけないように思う。<鈴木弁護士(司会)>
- 一般民事のIT導入に懐疑的であるが、この制度は多数かつ少額の消費者被害を扱うものであり、手続きにあまり費用をかけられない。この類型にはぜひ、ITの推進をお願いしたい。<北後弁護士>
会場参加者との質疑(概要)
- Q1:少額被害者を救いたいという思いで、集団訴訟できる事件を集めるウェブサイトを運営している。仮想通貨の件でも多数の被害者が集まっている。しかし、弁護士法の関係で直接依頼を受けることはできないので、引き受けてくれる弁護士を探している。そういう点でCOJと連携することはできないか。
- A1:現在の制度は特定適格消費者団体が原告となって集団訴訟をおこすというものなので、この話との関連はあまりないように思われる。個別の被害の救済の仕組みをどうするのかという点は、弁護士法との関係も含めて、別途検討していくべきと考えている。<鈴木弁護士>
- Q2:事業者ではなく広告媒体の問題であるが、ウェブサイト上で悪質な事業者のバナー広告を出している運営管理者の責任を問うことはできないか。また、公共交通機関に広告が出されていたのであれば、その公共交通機関の責任についてはどうか。
- A2:バナー広告を載せたウェブサイト側の責任については、特定適格消費者団体が対処できる問題ではないと思われる。一種のチャレンジとして別のところで考えていることはあるが、まだ回答できる段階ではない。<瀬戸弁護士>
新聞などのメディア媒体に対して、悪質な広告を載せたことの責任を問う訴訟がなされたことはあるが、敗訴している。不法行為の責任を問えるとは思うが、実際には敗訴しているので提訴は難しい。<中野弁護士> - Q3:視覚障害で文書が読めないため、利用できる情報が少ない。COJのような団体が訴訟を行っても、情報が届かない。約款も読めないので、事業者との関係で不利な立場にある。何かアドバイスをもらえないか。
- A3:特定適格消費者団体が訴訟を行う場合には、その内容を視覚障害者の方にも知っていただけるように音声による読み上げなどの対応をするべきであり、事務局体制の確保が必要なろうと考えている。<鈴木弁護士>
契約締結時に点字がきちんと揃っていればよいが、現状ではそうではないので、事業者に約款を読み上げてもらい録音しておく、というのが一つの方法と思われる。制度的には、消費者契約法で事業者側に契約締結時の約款の読み上げを義務付ける、ということが課題になると思われる。<中野弁護士>