消費者機構日本(COJ)は、消費者被害の未然防止・拡大防止・集団的被害回復を進めます

イベント等

第12回 通常総会・記念講演会 開催報告

 消費者機構日本は、第12回通常総会を6月14日(火)に開催しました。総会では2015年度の事業報告・決算を承認いただくとともに、全役員の任期満了のため役員改選が行われました。また、2016年度事業計画と予算について報告しました。
 通常総会の開催状況につきましては、当ホームページ「消費者機構日本とは」の「総会報告」欄に掲載されていますので、ご参照いただければ幸いです。

 冒頭に、和田理事長から、第12回通常総会の開催状況と役員の改選が行われたことが報告され、次いで新会長の中山弘子氏の挨拶、新理事の青山理惠子氏、福長恵子氏、赤羽朋子氏の紹介が行われました。

 そして、第12回通常総会後に総会記念講演会を開催しました。この講演会では、「消費者保護制度の今日的課題と適格消費者団体への期待」と題し、平成23年から消費者委員会委員長としてご活躍されている河上正二氏より、消費者関連法改正審議、機能性食品表示制度の導入に関わる問題分析等の重要な課題を踏まえ、現在の消費者行政の課題と適格消費者団体へ期待することなどをお話しいただきました。

 以下に、講演会の概要についてご報告いたします。

1.日 時
2016年6月14日(火) 19時00分~20時30分
2.会 場
主婦会館プラザエフ 9階「スズラン」
3.参加者
90名(事務局を含む)
4.次 第
講演テーマ「消費者保護制度の今日的課題と適格消費者団体への期待」
講師 東京大学大学院法学政治学研究科教授
消費者委員会 委員長 河上 正二 氏
消費者委員会ホームページ

講演概要

消費者の保護

 消費者の保護が本格的に唱えられるようになったのは、1960年頃から。米国のケネディ大統領が議会に送った「消費者の利益の保護に関する特別教書」(1962年3月)が、「消費者の権利」として安全である権利・知らされる権利・選ぶ権利・意見が反映される権利の4つを掲げたことはよく知られ、フォード大統領によって消費者教育を受ける権利が加えられた。今日、国際消費者機構(IOCU)が、さらにこれを推し進めて、1979年に消費者の8つの権利と5つの責任を提唱して定着している。

河上正二 委員長
河上正二 委員長

8つの消費者の権利
①消費生活における基本的な需要が満たされ
②健全な環境の中で消費生活を営むことができる中で
③消費生活の安全が確保されること
④商品・役務の自主的・合理的選択の機会が確保されること
⑤必要な情報の提供を受けること
⑥教育の機会が提供されること
⑦消費者意見が政策等に反映されること
⑧被害の救済が適切・迅速に受けられること

 今回の熊本の震災では、基本的なことができていなかった。大手自動車会社の燃費性能偽装事件でも同様である。「消費者」という表現は、「国民」「市民」の代名詞であり、被害に遭っても適切な救済を受けられる体制が必要である。

消費者問題の歴史

 消費者問題の歴史を紐解くと、1960年代は大量生産、大量販売の時代で、欠陥商品・薬品(サリドマイド等)の被害が起こり、薬事法、割賦販売法、景品表示法などが制定された。「弱くて愚かな国民」を守るために消費者保護条例等の整備も進んだ。

 1970年代は、マルチ商法などの新しい消費者問題が発生し、「契約」というものが表に出た。非店舗取引の被害が多発し、割賦販売法にクーリングオフ導入、訪問販売法が制定された。

 1980年代は、サラ金被害や多重債務問題が増加した。ここで被害を大きくしたのは、「クレジット契約」である。豊田商事事件では、多くの高齢者が被害に遭った。この時期には、訪問販売、特定商品預託等取引に関する法整備が進み、消費者問題にお金を借りることやお金を投資することが加わった。

 1990年代は、規制緩和の波が押し寄せ、自由市場を大事にしつつ、消費者にはセーフティーネットをはるため、製造物責任法や消費者契約法などが制定された。また、インターネットなどの急速な普及により、これに対応できない消費者との間で新たな問題も起こった。

 2000年代は、BSE問題で食の安全に対する信頼が揺らぎ、食品安全基本法の制定、食品安全委員会が設立された。日進月歩で進化するIT革命に対応するために、個人情報保護法、電子消費者契約法の整備が進み、リコール隠しや食品偽装の内部通報者を守るために、公益通報者保護法が整備された。そして、2009年9月に消費者庁・消費者委員会が設置され、消費者政策は、新たな段階に入った。

 2010年代では、消費者問題はボーダレス化し、国境を越えたトラブルへの対処が求められるようになってきた。また、違法・脱法ドラッグ、劇場型振り込め詐欺などの問題が起こり、市場活動と犯罪との境界も曖昧になった。

現在の消費者問題

 昨今でも分譲マンションの杭打ちデータ偽装事件、スキーバス転落事故、自動車の燃費偽装など企業の不祥事が続いている。あまりにもひどい事業者は市場から出て行ってもらう必要がある。この対応は消費者庁だけでは無理で、これからは民間が監視する機能が必要だ。

 トクホの問題などは、制度を導入する前提で消費者委員会に答申に付されたため、条件をつけるだけしかできなかった。景品表示法の課徴金制度は一定の効果が見込まれるが、日本は諸外国に比べてリコール制度がうまく機能していない。これには法改正が必要である。

 美容医療の広告にはひどいものがあり、医療法を変えるべきである。今後は継続した施術等は特定商取引法の規制の対象になるが、1回きりのものは対象外のままである。

 クレジットカードの問題では、日本はシステムに脆弱性があるため、これをオリンピックまでに解決しなければ外国から付け込まれる恐れがある。新しい仕組みの改革案が提示されているが、この前の国会では法案が成立せず、次の臨時国会まで持ち越された。

 電力自由化では、サービスがパック化されて不透明になり、混乱をもたらしている。

 今後、消費者行政が効果的に推進できるかどうかは、地方消費者行政の在り方にかかっている。

適格消費者団体への期待

 現在の消費者被害では、「多数消費者被害」がうまく救済されておらず、「少額被害」の救済も必要である。適格消費者団体にはその部分を担ってほしい。

 そのためには、適格消費者団体に国が資金を出すべきで、現状、資金を出さないのに口を出し過ぎている。業界からの圧力のためか、今は過剰な監督がされている。

 適格消費者団体には、専門家集団としての役割を発揮して、勝つ見込みのある訴訟を適切に選んでほしい。新たな財産的被害回復制度では、一段階目で勝訴すればその後の民事は楽になる。最初の被害回復訴訟をしっかり選んでほしい。

 また、団体の運営を継続的にしていくことも重要で、今は生協が支えているが、事務局や弁護士などが手弁当で参加しなくてもいいように、できれば自前で運営できるのが望ましい。

消費者政策の行方

 消費者はそこそこ愚か(人間がそうだから)で、市場は不完全である。そのため、セーフティーネットには、「保護」と「支援」の最適な組み合わせが必要である。緩やかな見守りネットワークと助言できる専門家の適正配置があるとよい。

 官民連携の在り方は、「抑制の効いた介入」と「適切な支援」であるべき。

 また、消費者の多様化への配慮が必要。弱い消費者から賢く強い消費者まで多様化している。参加して楽しい、ためになる実感が伴う活動が望ましい。

 この前の国会では、消費者契約法と特定商取引法の改正法案が成立した。法案成立のために多くの消費者団体が相当な努力をしたことを聞いており、深く感謝している。重要な法案の多くが論議されずに終わったことを考えれば、素晴らしい成果である。

 消費者契約法は、第一次答申と第二次答申に分け、一次答申は改正できたが、これから二次答申に取り組んでいく必要がある。特定商取引法は、不招請勧誘の問題で法改正全体ができなくなりそうになったが、指定権利制の廃止を優先させて決着した。両法案とも持ち越された課題があるため、継続して取り組んでいくべきである。