イベント等
第18回消費者志向経営セミナー
「新任担当者向け消費者法制基礎セミナー」を開催しました。
今回のセミナーは、お客様相談窓口等の顧客対応部門及び法務・コンプライアンス部門に今年配属された新任担当者の方々に、消費者から自分に期待されていることを知る機会を提供するとともに、自分の業務に必要な知識を習得する契機となるよう企画しました。
具体的には、日頃消費者から相談を受けている消費生活相談員の方からの事業者の皆様への問題提起と、法律専門家からの消費者法制の沿革や消費者契約法を中心とした具体的な事例のご紹介をいたしました。
- 日 時 2014年7月29日(火) 13時30分~16時30分
- 会 場 主婦会館プラザエフ 5階会議室
- テーマ 「新任担当者向け消費者法制基礎セミナー」
- 参加費 5,000円
- 参加者 35名
- 13:35~14:05
- 講演1「消費生活相談の現場から~これだけは知っておいて欲しいこと」
消費生活相談員 大谷 聖子 氏 - 14:05~15:05
- 講演2「お客相談担当・法務・コンプライアンス担当者が知っておくべき消費者法制」
専修大学法科大学院客員教授 弁護士 佐々木 幸孝 氏 - 15:05~15:20
- <休憩>
- 15:30~16:20
- 引き続き講演2
- 16:20~16:30
- 質疑応答
- 16:30
- 閉会
「消費生活相談の現場から」~これだけは知っておいて欲しいこと
1968年(昭和43年)に制定された消費者保護基本法は、消費者行政の展開に重要な役割を果たしました。2004年(平成16年)に全面的に改正され、名称も「消費者基本法」と改められました。これは、消費者問題に対する行政や社会の認識が、消費者の「保護」から消費者の「権利」へと大きく転換したことを示しています。
従来の消費者政策は、事業者を業法等に基づき規制するとい う手法を中心に展開されてきました。そこでは、一般的には消費者は行政に「保護される者」として受動的に捉えられてきました。また、消費者保護基本法においては、国及び地方公共団体は「消費者の保護に関する施策」を実施することとされ、消費者の「保護」を通じて消費者の利益の擁護及び増進を確保することが基本とされていました。
しかし、消費者保護基本法が1968年に制定されて以降、急速な経済成長、広範な分野にわたる規制改革の推進、IT化や国際化の進展等により消費者をとりまく環境は著しい変化を遂げる中で、消費者政策の基本的な考え方や施策の内容を抜本的に見直し、21世紀にふさわしい消費者政策として再構築することが不可欠であるとの認識の下、2004年通常国会において、議員立法により同法が改正され、2004年5月26日に成立、同年6月2日に消費者基本法として公布・施行されました。
事業者については、
- 消費者の安全及び消費者との取引における公正の確保
- 消費者に対し必要な情報を明確かつ平易に提供すること
- 消費者との取引に際して、消費者の知識、経験及び財産の状況等に配慮すること(適合性原則)
等を責務とするとともに、環境の保全への配慮、自主行動基準の策定等による消費者の信頼の確保に努めることが規定されました。
消費生活センターは、消費者安全法に規定される消費者からの苦情に関する相談、あっせん及び情報提供等の事務を行うため、都道府県・市町村により設置されています。同法では、都道府県には必置義務、市町村にも設置の努力義務が規定されています(同法第8条および10条)。
最近の消費生活相談の傾向と特徴は、高齢者の相談が10年前の約2.5倍、健康食品の送りつけ商法が激増、「買え買え詐欺」被害(劇場型勧誘)が止まらない、インターネット関連の相談は増加する一方、悪質な勧誘方法も散見される電気通信サービスがあげられます。
お客様相談担当者が知っておいて欲しいこととして、
- 特に、消費者契約法、特定商取引法、割賦販売法、景品表示法など消費者関連法を熟知して欲しい。
- 行政の消費生活センターからの申し出、斡旋等に対し、個人情報保護を理由に、個別案件の問い合わせに対し、「お答えできない」「話せません」などの対応をせず、行政の窓口と一緒になって・連携して、苦情解決していくという姿勢を持って欲しい。
- 消費者からの申し出に対して、その真意を汲み取り、適切な対応をして欲しい。
- 企業の姿勢で、消費者対応に格差があると、行政の窓口は見ています。どの企業も、消費者志向・顧客満足を謳っている現状を考えると、一歩踏み込んだ対応が必要ではないでしょうか?
- お客様相談窓口の拡充、つながりやすい、アクセスしやすい環境を
問い合わせがメールだけとか、電話が全然つながらないなど、消費者が相談しづらい環境の改善を望みます。
「お客相談担当・法務・コンプライアンス担当者が知っておくべき消費者法制」
1.消費者法制は、大きく以下の三つに分けられる。
- ①消費者保護基本法の成立(1968)まで(安全性に対する立法の時代)
森永ヒ素ミルク事件(1955)、ニセ牛缶事件(1960)、サリドマイド事件(1962)などが起き、薬事法(1960)、割販法(1961)、景表法(1962)などの法律が成立。
消費者保護基本法は、消費者保護が行政の役割であることを明確にしたが、消費者の権利については言及されておらず、消費者は行政による保護の対象との考え方。行政が事業者を規制することによって、消費者を反射的に保護するものであった。 - ②消費者契約法の成立(2000)まで
消費者問題が、安全、衛生、表示、広告の問題から販売方法・契約といった内容に変化していったこと、新種の消費者被害から消費者を保護するため、74年頃よりの訪問販売・マルチ商法被害から訪問販売法(1976、後に特定商取引法に改称)、ネズミ講被害から無限連鎖講防止法(1978)、豊田商事などの現物まがい商法被害の多発から預託法(1986)、海外先物取引被害から海先法(1982)、70年代後半からの深刻なサラ金問題から貸金業法制定と出資法改正(1983)、70年代後半からのクレジットトラブルの増加を受けて割賦販売法に抗弁の接続規定の改正(1984)。
規制法ばかりでなく、民事ルールとして製造物責任法(1994)、消費者契約法(2000)が制定された。 - ③消費者基本法の成立(2004)とそれ以後の立法は次のようなものである。
消費者保護基本法を消費者基本法に改正
消費者団体による差止請求制度の導入(2006)
消費者庁・消費者委員会の設置と消費者安全法の成立
集団的な消費者被害の回復制度(消費者裁判特例法)の成立
2.各消費者関連法の説明
- ①消費者基本法
21世紀の消費者政策の理念やあり方を定める重要な法律である。他の法律や行政を指導・誘導する役割をもつが、法律的効果はない。消費者と事業者の情報・交渉力の格差を正面から認め、行政や事業者の責務と施策の基本事項を定めている。国・地方自治体、事業者も消費者の権利の尊重と自立支援にのっとって自らの責務を果たすべきことが明記されている。 - ②消費者安全法
消費者の消費生活における被害を防止し、その安全を確保するため、内閣総理大臣による基本方針の策定、都道府県及び市町村による消費生活相談等の事務の実施及び消費生活センターの設置、消費者事故等に関する情報の集約・調査等、消費者被害の発生又は防止のための措置等を講ずることとしている。
いわゆるすき間事案で、生命身体に関する重大事故等の場合、多数消費者に重大な財産被害を生じさせている事態の場合には、内閣総理大臣に命令権を付与している。 - ③消費者契約法
法律の目的に、消費者と事業者の間の情報の質・量、交渉力格差の是正が明記されている。消費者と事業者の間のすべての契約に適用される法律であり、消費者と事業者との間の民事ルールを決める法律(業法ではない)である。
消費者契約において、不当な勧誘行為があった場合の取消権を定めている。
また、消費者に著しく不利益な契約条項は無効となる。
不当な勧誘行為
*不実告知、*断定的判断の提供、*不利益事実の不告知、*不退去、退去妨害
不当な契約条項
*事業者の責任を免責する契約条項、*契約解除に伴う損害賠償や違約金の定めで平均的損害を超えるもの、*消費者の利益を一方的に害する契約条項
さらに、消費者被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求ができる制度を設けた(消費者団体訴訟制度)。 - ④特定商取引法
特商法は性格としては、監督官庁が事業者を監督するための業法の面が強く、法律の下に政令、省令、通達があり、細かな規制がなされている。対象は、訪問販売(法2 、3~ 10)通信販売(法2 、11~15 の2) 電話勧誘販売(法2 、16~25)連鎖販売取引(法33 ~40の3)特定継続的役務提供(法41~50)業務提供誘引販売取引(法51 ~58 の3 )訪問購入(法58の4~58の17)ネガティブオプション(法59 )
ただし、民事ルールも定められており、その代表的なものがクーリングオフ制度である。 - ⑤景品表示法
景品の規制(いずれも最高額を規定)と表示の規制(優良誤認・有利誤認)を定めている。
3.事業者として注意すべき点(実際の事例をもとに)
下記の適格消費者団体による差止請求事例を通じて、留意すべき点が説明された。
事例1:有料老人ホームの入居一時金条項に対する差止請求(交渉)と改善例
事例2:建物賃貸事業者への差止請求(提訴)と改善例
事例3:建築事業者への差止請求(交渉)と改善例
4.消費者裁判手続き特例法
特定適格消費者団体(適格消費者団体の中から一定の要件をみたすものとして認定された団体)が、裁判所に対してまず事業者が対象消費者に対して共通して負う義務を確認してもらう訴訟を提起し、その勝訴判決が確定した場合(和解もありうる)に、二段階目の債権確定手続開始の申立を行い、対象消費者の授権を得て債権の届出をして、簡易な手続きで対象消費者の個別債権を確定していく手続き。
同制度施行を前提とした事業者の注意点について、以下のように説明がされた。
- ①これまで以上に消費者の苦情・問い合わせ等の情報を的確に把握する必要
- ②苦情などを調査・分析して、問題があれば素早い対応が要請される(自主的なリコール、返金などがなされれば、提訴を避けられる可能性がある)
- ③特定適格消費者団体は、これまでの活動からみて、いきなり提訴の可能性は低いので、コミュニケーションの必要性はかわらない。
- ④共通義務が確認された後の、債権確定手続きでは、対象消費者へ通知する情報、あるいは消費者へ通知する手段などを事業者が有していることが通常と考えられるので、これらを積極的に提供することが求められる。
→消費者の信頼を取り戻すことにもつながる - ⑤徒に訴訟を長期化させることによる企業イメージへの影響の考慮も必要