消費者機構日本とは
あゆみ
消費者団体訴訟制度の検討が本格的にすすめられる状況をふまえ、(財)日本消費者協会、(社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会、日本生活協同組合連合会の3団体(団体の名称は2004年当時のもの)が、消費者団体訴訟制度の実現を見据え、その制度を活用するための新たな組織についての協議を開始しました。
新たな消費者組織は、消費者被害に関する情報を把握・分析でき、組織運営と財政の責任を担える非営利団体が中心となり、学識者・専門家、その他消費者問題に関心の高い個人の参加を得て「新消費者組織準備会」を設置し、運営ルールや活動内容などの検討に着手しました。会議を重ね、設立趣旨書、定款、事業課題、財政負担の考え方などの案を準備するとともに、併行して、個人正会員の参加要請を進めていきました。
同年7月には個人正会員と団体正会員で準備会総会を開催し、併行して不当な約款や勧誘行為等の事例学習を行い、事業課題の推進イメージを具体化していきました。
このような活動を経て、2004年9月に設立総会を開催し、2005年1月には特定非営利活動法人の認証を得ました。
2007年6月に消費者団体訴訟制度(差止請求)が施行され、施行日の6月7日に適格消費者団体の認定申請を行ない、8月23日に適格消費者団体の第1号として認定を受けました。
制度施行に先立って2005年から被害情報対応委員会(後の差止請求委員会)を発足させました。制度施行後の活動イメージを形成しつつ、2006年には会員をはじめとしたボランティアの皆さんの協力によって電話110番活動も実施し、そこで寄せられた情報の中から法令に反すると考えられるものを中心に不当な約款・勧誘行為に対する是正申入れの活動実績を積み重ねました。
認定後に消費者契約法にもとづく裁判外の申し入れを2件実施しましたが、いずれも改善の意思表示があり、差止請求訴訟に至ることなく是正を図ることができました。適格認定以前の申し入れ事案もあわせると、消費者契約法にもとづく申入れ6件全てについて、事業者から約款等是正の回答を得ており、提訴に至らずとも消費者団体訴訟制度の効果が現れた形となりました。
また、並行して公開学習会、事業者を対象とした消費者志向経営セミナー、消費者団体訴訟制度に関する政策提言活動等にも取り組んでいきました。
この頃、検討チームの活動が活発に行われ、差止請求権を背景とした申入れ活動を展開していきます。
2008年の通常国会で特定商取引法と景品表示法の改正が行われ、差止請求の対象が拡大されました。2009年4月に景品表示法、同年12月に特定商取引法(その後、2015年4月に食品表示法)で施行されていきます。消費者契約法も、その後数次に亘る改正が重ねられ、取り消し得る不当な勧誘行為や無効となる不当な契約条項が追加されていきます。
また、福田内閣の下での消費者行政一元化に向けた検討が結実し、2009年9月に消費者庁と消費者委員会が設立されました。そして、消費者庁等設置法附則6項には集団的消費者被害回復訴訟制度について施行後3年を目途に必要な措置を講ずることが定められました。これを機に、差止請求権から更に進めて、被害回復のための団体訴権を求める取り組みが本格的に展開されていきます。
2010年には、三井ホームエステート(株)に対し、当機構として初めての差止請求訴訟を起こしました。
請求した5項目の内3項目(経年劣化・自然損耗の場合の原状回復費用の負担など)については一審中に是正が図られたため、訴外の和解が成立し、合意書を締結した上で訴えを取下げました。残り2項目についての請求は棄却されたものの、是正された3項目に類似する契約条項は不動産業界一般で広く使用されており、業界の実態に警鐘を発することができたと言えます。
また、2011年には、(株)ワールドアベニューに対し、当機構として2例目の差止請求訴訟を起こしました。同社の海外留学プログラム約款の「申込金は契約締結後の解約時には一切返還しない」との定めについて改善を申入れ、訴外の交渉で契約日からの経過日数に応じて返金する形に改定されました。しかし、消費者契約法に定める平均的損害の考え方に照らすとなお不十分であるため提訴したものです。その結果、出発日から逆算した日数も組み合わせる形で改善され和解しました。
この頃から事案別の臨機の検討チームを複数立ち上げて活動するようになりました。
2013年の臨時国会で消費者裁判手続特例法が成立しました。2012~2013年は全国の消費者団体と法律家、専門家によって早期創設運動が展開され、累次のアピールの発表や議員要請行動、2度の院内集会開催などの取り組みが展開されました。審議の過程で産業界(事業者等)から寄せられた数々の懸念に対しても粘り強く対話し、濫訴の抑制、予測可能性の確保などの点で十分配慮した堅実な制度が設計され、最終的には全会一致で成立しました。
消費者被害は、大量流通・消費(さらに情報化)の中で同種の被害が拡散的に多発しますが、個々の被害は比較的少額のため裁判費用に見合わず「泣き寝入り」になりがちという特徴があります。この制度はそうした消費者側の事情をふまえて設計された二段階のユニークな仕組みとなりました。この制度設計については、2010年の消費者庁「集団的消費者被害救済制度研究会」、2011年の消費者委員会「集団的消費者被害救済制度専門調査会」などの場で検討されたものです。消費者機構日本はこれら検討に参加し、適宜提言等を行うとともに、シンポジウム開催等、制度の早期制定を求める世論形成の取り組みを進めました。
消費者裁判手続特例法の2016年10月の施行に向けて準備を進めました。特定適格消費者団体の認定監督に関するガイドラインの策定にあたっては、消費者庁の研究会に参考人として対応するとともに、全国の適格消費者団体と連携して意見を述べてきました。
消費者庁からの受託事業として「差止請求事例集」を作成しました。
消費者機構日本の設立10周年に際し、組織財政基盤の強化策について内部プロジェクトでの検討をすすめ、理事長への答申がまとめられました。
2016年10月の消費者裁判手続特例法の施行にあわせて特定適格消費者団体の認定申請を行い、12月27日に特定適格消費者団体として第1号の認定を受けることができました。特定認定制度活用チーム(後の被害回復委員会)を設け、特定適格消費者団体として被害回復関係業務を本格的に開始しました。
この頃までに全国の適格消費者団体も14団体になり、適格消費者団体連絡協議会などの場を通じて連携を深めていきます。
銀行カードローンの期限の利益喪失条項については2016年度から13件の申し入れを行いました。この件について適格団体連絡協議会の場で取り組みの呼びかけを行った結果、全国で26件の申入れが行われ改善が図られてました。また、2022年に国会審議の中でも取り上げられ、金融庁から預金取扱金融機関に対する検証要請につながりました。
財政基盤の強化については、会員募集の取り組み、認定NPOとして会員へ寄付の呼びかけを行うなどの取り組みを行いました。また、全国消費者団体連絡会の場でも適格消費者団体の財政を支援していく必要性について議論が行われ、そのための仕組みとして「消費者スマイル基金」が設立されました。
大学医学部入試において差別的な合否判定が行われていた問題が報道され、社会的な関心を集めました。大学に第三者委員会が設けられ、事実関係が明らかとなったことを機に、消費者裁判手続特例法による初めての共通義務確認訴訟として東京医科大学を提訴しました。
この訴訟で裁判所は「本件判定基準を用いたことは社会通念上相当とは認められない差別的な取扱いであり、被告は、本件試験の募集に際し、対象消費者に対し、本件判定基準を用いることを事前に明らかにすべき信義則上の義務を負っていた」「対象消費者に対する関係で不法行為を構成するものと認められる」「本件判定基準が事前に明らかにされていれば、一般的に、対象消費者は本件試験に出願しなかったといえる関係があるものと認めることが相当であり、入学検定料等相当額は本件判定基準を事前に明らかにすべき義務の違反により生じた損害であると認められる」との趣旨で、当機構の請求をほぼ認容する判決を言い渡しました。その後の簡易確定手続で559人に賠償金を分配し、2021年9月に終了しました。
大学医学部入試における差別的合否判定をめぐる訴訟は勝訴したものの、その被害の本質と言える慰謝料を請求できないなど様々な制度的課題も浮き彫りにしました。
また、いわゆる情報商材の不当勧誘として(株)ワンメッセージ他を提訴した訴訟では、一審・二審ともに訴訟要件を欠くとして門前払いとされました。この判決は消費者裁判手続特例法の「支配性の要件」の解釈・適用に重大な問題を残すことから、多くの有識者や全国の適格消費者団体からの意見書も添えて最高裁に判断を求めました。
これらの実践を通じて明らかになった消費者裁判手続特例法の課題について、法律改正に向けた働きかけを進めました。それら問題意識は2021年末にまとめられた消費者庁有識者会議の報告書に反映され、2022年の通常国会の審議を経て法改正に至りました。消費者被害回復訴訟制度の使い勝手を改善する法改正として評価できるものとなりました。
この頃から、簡易確定手続の授権契約によって、先払いしてきた費用を回収し、報酬を得ることができるようになりました(2021年東京医大、2022年順天堂大学)。これにより消費者機構日本の正味財産も大幅に増加し、活動基盤が強化されていきました。
順天堂大学医学部の不正入試に対する被害回復訴訟で簡易確定手続が終結し1,184人もの被害回復が実現しました。改正法施行前のため実損害の範囲に限定されたものの、手続参加を容易にして共通多数の被害回復を図るという制度の趣旨を一定に実現することができました。順天堂大学側から対象者全ての名簿が提供され、連絡先不明の方を除き約9割の方々に直接通知することができましたが、それにもかかわらず手続きへの参加が全体の半数弱に止まり、消費者被害回復訴訟制度の認知度の向上が引き続き課題であることを示すものとなりました。
(株)ワンメッセージに対する被害回復訴訟の上告審において、一審・二審の却下判決が取り消され、東京地方裁判所に差し戻す旨の判決を得ることができました。下級審の判断が消費者裁判手続特例法の適用範囲を著しく狭め、その立法の意義を大きく減殺するものであったところ、今回の最高裁判決は特例法の立法趣旨に適う判断であり、今後の消費者団体訴訟制度の運用に良い影響を与えるものと評価できます。
(株)エーチーム・アカデミーに対する差止請求訴訟においても、相手方による上告受理申立てを不受理とする最高裁判所の決定が示されました。これにより入学時諸費用の権利金的性格を否定し中途解約時の返還を要するとした控訴審判決が確定することとなり、今後の同種消費者紛争に良い影響を与えるものと期待できます。
また、消費者裁判手続特例法改正により新設された「消費者団体訴訟制度等支援法人」として、消費者スマイル基金が認定を受けました。
- 2003年
- 2004年
- 3月 新消費者組織準備会が発足
- 9月17日 消費者機構日本設立
- 2005年
- 1月 初めての公開学習会「金融先物取引法改正と外国為替証拠金取引被害」を開催
- 3月 初めての事業者事業者セミナー「消費者基本法と消費者団体訴訟制度」を開催
- 6月 初めての110番「各種学校・塾・予備校等の契約トラブル110番」を実施
- 2006年
- 7月 ホームページでの情報収集を開始。
- 2007年
- 6月 書籍『パワーアップ消費者力』を刊行。
- 8月 適格消費者団体として第1号の認定。
- 9月 東京都消費生活センターと「消費生活相談情報の提供と利用に関する覚書」を締結。
- 2008年
- 3月 東京都と「不適正な取引行為に関する情報提供協定書」締結。
- 2009年
- 2010年
- 9月 三井ホームエステート(不動産賃貸借事業者)に対して差止請求訴訟を提起。【COJ第1号差止訴訟】
- 2011年
- 1月 COJが認定NPO法人として認定
- 7月 消費者支援功労者表彰 「特命担当大臣表彰」
- 9月 ワールドアベニュー(留学あっせん事業者)に対して差止請求訴訟を提起。【COJ第2号差止訴訟】
- 2012年
- 7月 三井ホームエステート 第一審判決、控訴
- 11月 ワールドアベニューと和解
- 2013年
- 3月 三井ホームエステート 控訴審判決
- 2014年
- 9月 消費者機構日本 設立10周年
- 2015年
- 5月 伸栄(クリーニング業)に対し差止請求訴訟提起。【COJ第3号差止訴訟】
- 9月 ケイ・ツウ(家庭教師派遣業)に対して差止請求訴訟提起。【COJ第4号差止訴訟】
- 10月 伸栄 和解
- 11月 ケイ・ツウ 和解
- 2016年
- 12月 特定適格消費者団体に認定。
- 2017年
- 11月 東京都消費者月間実行委員会に参加
- 2018年
- 5月 エーチームアカデミー差止請求訴訟提訴。【COJ第5号差止訴訟】
- 12月 東京医科大学に共通義務確認訴訟提訴。【COJ第1号回復訴訟】
- 2019年
- 4月 ワンメッセージおよび泉忠司氏 共通義務確認訴訟提訴。【COJ第2号回復訴訟】
- 10月 順天堂大学医学部に共通義務確認訴訟提訴。【COJ第3号回復訴訟】
- 2020年
- 3月 東京医科大学 共通義務確認訴訟判決
- 4月 東京医科大学 簡易確定手続き申立て
- 2021年
- 5月 ワンメッセージ 共通義務確認訴訟判決、控訴
- 6月 エーチームアカデミー 差止請求訴訟判決、控訴
- 7月 東京医科大学 簡易確定手続き 和解
- 9月 順天堂大学医科大学 共通義務確認訴訟 判決
- 9月 MOMOX 差止請求訴訟 提訴 【COJ第6号差止訴訟】
- 10月 順天堂大学医学部 簡易確定手続き申立て
- 12月 ワンメッセージ 共通義務確認訴訟 控訴棄却、最高裁に上告兼上告受理申立
- 12月 ジェネシスジャパン 差止請求訴訟 提訴【COJ第7号差止訴訟】
- 2022年
- 3月 「津谷賞」を受賞
- 4月 IBJブライダルネット 差止請求訴訟 提訴
- 4月 ジェネシスジャパン 差止請求訴訟 請求認諾
- 10月 MOMOX 差止請求訴訟 判決
- 2023年
- 3月 順天堂大学医学部 簡易確定手続き 和解
- 4月 エーチームアカデミー 控訴判決、上告に対応
- 7月 内閣府賞勲局より、「紺綬褒章」の公益団体に認定
- 7月 ジェクサ 共通義務確認訴訟 提訴
- 11月 山梨県 差止請求訴訟 提訴(医師地域枠契約の違約金)
- 2024年
- 3月 ワンメッセージ共通義務確認訴訟 最高裁判決
- 4月 エーチーム・アカデミー差止請求訴訟 最高裁判決